Web Music ドキュメント
Web Music
Web Music とは, Web (ブラウザ) をプラットフォームにした音楽アプリケーション, あるいは, そのような Web アプリケーションを実装するために必要となる, クライアントサイドの JavaScript API の総称です. これは, 一般的な技術用語ではなく, ある種の技術マーケティング的な造語です.
具体的には, 以下のような, クライアントサイド JavaScript API の総称です.
Web Audio API, HTMLMediaElement, WebRTC に関しては, 本サイト制作開始時点の 2023 年時点で W3C recommendation となっており, モダンブラウザであれば利用することが可能です (ただし, クライアントサイド JavaScript の宿命ではありますが, OS やブラウザによって, 挙動が微妙に異なる, また, 移植性を考慮すると, そのためのクロスブラウザ対応の問題は少なからず必要となります). これらの クライアントサイド JavaScript API は 2010 年代前半ごろは, HTML5 というバズワード化したカテゴリに入る API でした. 現在は, HTML5 という仕様, あるいは, 用語が定着したからか, HTML5 というワードが使われることはほぼなくなりました. したがって, Web Music に関係する API も, 膨大なクライアントサイド JavaScript API のうちのいくつかです (という認識が一般的と言えます).
Web Audio API
Web Music のなかで, もっともコアな API が Web Audio API です. 言い換えると, Web
をプラットフォームとした音楽アプリケーションを制作するほとんどの場合で必要になる API ということです. なぜなら,
HTMLAudioElement
はオーディオファイルを再生するための API で, 高度なオーディオ処理をすることはできず (厳密には,
jsfx
のようにハッキーな実装をすることでエフェクトをかけるぐらいは可能ですが, 仕様のユースケースとして想定されている使い方ではありません),
リアルタイム性やインタラクティブ性も考慮された API ではないからです (厳密には, 考慮された経緯もあって,
Audio
コンストラクタが定義されています). また, Web Music として, Web MIDI API や WebRTC を使う場合, 実際のオーディオ処理は Web Audio API
が実行することになります.
Web Music の歴史
古くは, IE (Internet Explorer) が独自に, bgsound
というタグを実装しており, ブラウザでオーディオをファイルを再生することが可能でした
(現在の HTMLAudioElement
に相当するタグと言えます). その後, Java アプレットや ActionScript (Flash) によって, 現在の Web Audio API
で実現できているような高度なオーディオ処理が可能となりました.
しかし, これらは特定のベンダーに依存し, また, ブラウザの拡張機能 (プラグイン) という位置づけでした. Web 2.0 (もっと言えば, Ajax) を機にブラウザでも, ネイティブアプリケーションに近いアプリケーションが実装されてくるようになると, これまで拡張機能 (オーディオ処理だけでなく, ストレージやローカルファイルへのアクセス, ソケットなど) に頼っていたような機能をブラウザ標準で (クライアントサイド JavaScript API で) 実現できる流れが 2010 年ごろから活発になりました (このころ, HTML5 という位置づけで仕様策定され, モダンブラウザで実装されるようになりました). そういった流れのなかで, Web Audio API も仕様策定されて現在に至っています (草案 (Working Draft) が 2011 年 12 月 15 日 に公開. 2021 年 6 月 17 日に勧告 (W3C recommendation で現在の最新バージョン)).
このサイトに関して
このサイト (ドキュメント) の目的は, Web Music, その中核となる Web Audio API について解説しますが, W3C が公開している仕様のすべてを解説するわけではありません. また, JavaScript の言語仕様の解説は, サイトの目的ではないこともご了承ください (ただし, Web Audio API を使う上で, 必要となってくるクライアントサイド JavaScript API に関しては必要に応じて解説をします (例. File API, Fetch API など).
このサイトは W3C が公開している仕様にとって代わるものではなく, Web Audio API の仕様の理解を補助するリファレンスサイトと位置づけてください.
デスクトップブラウザでは少なくなりましたが, モバイルブラウザでは仕様とブラウザの実装に差異があり, 仕様では定義されているのに動作しない ... ということもあります. その場合には, 開発者ツールなどを活用して, 実装されているプロパティやメソッドを確認してみてください.
解説の JavaScript コードに関して
ECMAScript 2015 以降の仕様に準拠したコードで記載します. また, ビルドツールなどを必要としないように, TypeScript での記述やモジュール分割などもしません (端的には, コピペすればブラウザコンソールなどで実行できるようなサンプルコード, あるいは, コード片を記載します). 具体的には, 以下のような構文を使います.
const
,let
による変数宣言- Template Strings
- アロー関数
- クラス
Promise
, または,async
/await
Web Audio API のコードも仕様で推奨されているコードを基本的に記載します (例えば, AudioNode
インスタンスを生成する場合,
コンストラクタ形式が推奨されているので, そちらを使います). ただし, 現時点であまりにも実装の乖離が大きい場合は, フォールバック的な解説として,
実装として動作するコードを記載します.
推奨ブラウザ
閲覧自体は, モダンブラウザであれば特に問題ありませんが, 実際のサンプルコードを動作させることを考慮すると, デスクトップブラウザ, 特に, Web Audio API の仕様に準拠している Google Chrome もしくは Mozilla Firefox (いずれも最新バージョン) を推奨します (Google Chrome の場合, より高度な Web Audio API 専用のプロファイラがあるのでおすすめです).
前提知識と経験
前提知識としては, ECMAScript 2015 以降の JavaScript の言語仕様を理解していることと, Web ブラウザを実行環境にした JavaScript による Web アプリケーションを実装した経験ぐらいです. Web Audio API は, ユースケースにおいて想定されるオーディオ信号処理を抽象化しているので, オーディオ信号処理に対する理解がなくても, それなりのアプリケーションは制作できます (アプリケーションの仕様しだいでは不要になるぐらいです). もちろん, オーディオ信号処理の理解や Web 以外のプラットフォームでのオーディオプログラミングの経験 (特に, GUI で必要なリアルタイム性のオーディオプログラミングの経験) があれば, それは Web Audio API を理解するうえで活きますし, Web Audio API が標準でサポートしないようなオーディオ処理を実現したいケースではむしろ必要になります.
また, 音楽理論に対する知識も不要です. Web Audio API はユースケースとして, 音楽用途に限定していないからです. したがって, このサイトでは, アプリケーションによっては必要になるドメイン知識として位置づけます (もちろん, ユースケースとして, 音楽用途も想定されているので, Web をプラットフォームにした音楽アプリケーションを制作する場合には必要となるケースが多いでしょう).
このサイトでは, オーディオ信号処理や音楽理論など必要に応じて解説します. Web Audio API が解説の中心ではありますが, Web Music アプリケーションを制作するための標準ドキュメントとなることを目指すからです (オーディオ信号処理や音楽理論を深入りする場合は, それぞれ最適なドキュメントや書籍がたくさんあるのでそちらを参考にしてください).
Issue と Pull Requests
プロローグの最後に, このサイト (ドキュメント) はオープンソースとして GitHub に公開しています. このサイトのオーナーも完璧に理解しているわけではないので, 間違いもあるかと思います. その場合には, GitHub に issue を作成したり, Pull Requests を送っていただいたりすると大変ありがたいです.
それでは, Web Music の未来を一緒に開拓していきましょう !
Getting Started
AudioContext
Web Audio API を使うためには, AudioContext
クラスのコンストラクタを呼び出して,
AudioContext
インスタンスを生成する必要があります. AudioContext
インスタンスが Web Audio API
で可能なオーディオ処理の起点になるからです. AudioContext
インスタンスを生成することで, Web Audio API
が定義するプロパティやメソッドにアクセス可能になるわけです.
const context = new AudioContext();
何らかの理由で, レガシーブラウザ (特に, モバイルブラウザ) もサポートしなければならない場合, ベンダープレフィックスつきの
webkitAudioContext
もフォールバックとして設定しておくとよいでしょう (少なくとも, デスクトップブラウザでは不要な処理で,
これから将来においては確実に不要になる処理ではありますが).
window.AudioContext = window.AudioContext || window.webkitAudioContext;
const context = new AudioContext();
AudioContext
インスタンスをコンソールにダンプしてみます.
const context = new AudioContext();
console.dir(context);
AudioContext
インスタンスに様々なプロパティやメソッドが実装されていることがわかるかと思います. このドキュメントではこれらを
(すべてではありませんが) メインに解説していくことになります. また, このように実装を把握することで, 仕様と実装の乖離を調査することにも役立ちます.
Web Audio API でオーディオ処理を実装するうえで意識することはほとんどありませんが, AudioContext
は BaseAudioContext
を拡張
(継承) したクラスであることもわかります.
Autoplay Policy 対策
Web Audio API に限ったことではないですが, ページが開いたときに, ユーザーが意図しない音を聞かせるのはよくないという観点から (つまり, UX
上好ましくないという観点から), ブラウザでオーディオを再生する場合,
Autoplay Policy
という制限がかかります. これを解除するためには, ユーザーインタラクティブなイベント 発火後に
AudioContext
インスタンスを生成するか, もしくは, AudioContext
インスタンスの resume
メソッドを実行して
AudioContextState
を 'running'
に変更する必要があります. これをしないと, オーディオを鳴らすことができません.
また, decodeAudioData
など一部のメソッドが Autoplay Policy 解除まで実行されなくなります. ユーザーインタラクティブなイベントとは,
click
, mousedown
や touchstart
などユーザーが明示的に操作することによって発火するイベントのことです.
したがって, load
イベントや mousemove
など, 多くのケースにおいてユーザが明示的に操作するわけではないようなイベントでは
Autoplay Policy の制限を解除することはできません.
document.addEventListener('click', () => {
const context = new AudioContext();
});
resume
メソッドで解除する場合 (この場合, コンソールには警告メッセージが表示されますが, Autoplay Policy
は解除できるので無視して問題ありません).
const context = new AudioContext();
document.addEventListener('click', async () => {
await context.resume();
});
これ以降のセクションでは, 本質的なコードを表記したいので, Autoplay Policy は解除されている状態を前提とします.
AudioNode
Web Audio API におけるオーディオ処理の基本は, AudioNode
クラスのインスタンス生成と AudioNode
がもつ
connect
メソッドで AudioNode
インスタンスを接続していくことです. AudioNode
クラスは,
それ自身のインスタンスを生成することはできず, AudioNode
を拡張 (継承) したサブクラスのインスタンスを生成して, オーディオ処理に使います.
AudioNode
はその役割を大きく 3 つに分類することができます.
- サウンドの入力点となる
AudioNode
のサブクラス (OscillatorNode
,AudioBufferSourceNode
など) - サウンドの出力点となる
AudioNode
のサブクラス (AudioDestinationNode
) -
音響特徴量を変化させる
AudioNode
のサブクラス (GainNode
,DelayNode
,BiquadFilterNode
など)
現実世界のオーディオ機器に例えると, サウンドの入力点に相当する AudioNode
のサブクラスが, マイクロフォンや楽器, 楽曲データなどに相当,
サウンドの出力点に相当する AudioNode
のサブクラスが. スピーカーやイヤホンなどに相当, そして, 音響特徴量を変化させる
AudioNode
のサブクラスがエフェクターやボイスチェンジャーなどが相当します.
これらの, AudioNode
のサブクラスを使うためには, コンストラクタ呼び出し, または,
AudioContext
インスタンスに実装されているファクトリメソッド 呼び出す必要があります (ただし, サウンドの出力点となる
AudioDestinationNode
は AudioContext
インスタンスの destination
プロパティでインスタンスとして使えるので,
コンストラクタ呼び出しやファクトリメソッドは定義されていません).
例えば, 入力として, オシレーター (OscillatorNode
) を使う場合, コンストラクタ呼び出しの実装だと以下のようになります.
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context);
インスタンス生成時には, その AudioNode
のサブクラスに定義されているパラメータ (OscillatorNode
の場合,
OscillatorOptions
) を指定することも可能です.
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context, { type: 'sawtooth', frequency: 880 });
ファクトリメソッドでインスタンス生成する場合, 以下のようになります.
const context = new AudioContext();
const oscillator = context.createOscillator();
コンストラクタ呼び出しによる, AudioNode
のサブクラスのインスタンス生成は, Web Audio API の初期には仕様策定されておらず,
AudioContext
インスタンスに実装されているファクトリメソッド呼び出す実装のみでした. インスタンス生成時に,
パラメータを変更可能なことから, どちらかと言えば, コンストラクタ呼び出しによるインスタンス生成が推奨されているぐらいですが,
ファクトリメソッドが将来非推奨になることはなく, また, 初期の仕様には仕様策定されていなかったことから,
レガシーブラウザの場合, コンストラクタ呼び出しが実装されていない場合もあります. したがって, サポートするブラウザが多い場合は,
ファクトリメソッドを, サポートするブラウザが限定的であれば, コンストラクタ呼び出しを使うのが現実解と言えるでしょう.
connect メソッド (AudioNode の接続)
現実世界の音響機器では, 入力と出力, あるいは, 音響変化も接続することで, その機能を果たします. 例えば, エレキギターであれば, サウンド入力を担うギターとサウンド出力を担うアンプ (厳密にはスピーカー) は, 単体ではその機能を果たしません. シールド線などで接続することによって機能します.
このことは, Web Audio API の世界も同じです. (AudioContext
インスタンスを生成して,) サウンド入力点となる
AudioNode
のサブクラスのインスタンス (先ほどのコード例だと, OscillatorNode
インスタンス) と, サウンド出力点となる
AudioDestinationNode
インスタンスを生成しただけではその機能を果たしません. 少なくとも,
サウンド入力点と出力点を接続する処理が必要となります (さらに, Web Audio API が定義する様々なノードと接続することで, 高度なオーディオ処理を実現する
API として真価を発揮します).
Web Audio API のアーキテクチャは, 現実世界における音響機器のアーキテクチャと似ています. このことは, Web Audio API の理解を進めていくとなんとなく実感できるようになると思います.
Web Audio APIにおいて「接続」の役割を担うのが, AudioNode
がもつ connect
メソッドです. 実装としては,
AudioNode
サブクラスのインスタンスの, connect
メソッドを呼び出します. このメソッドの第 1 引数には, 接続先となる
AudioNode
のサブクラスのインスタンスを指定します.
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
サウンドの入力点と出力点を接続し, 最小の構成を実装できました. しかし, まだ音は出せません. なぜなら,
サウンドを開始するための音源スイッチをオンにしていないからです. 現実世界の音響機器も同じです. 現実世界がそうであるように, Web Audio API
においても, 音源のスイッチをオン, オフする必要があります. そのためには, OscillatorNode
クラスがもつ
start
メソッド, stop
メソッド を呼び出します.
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
// Start immediately
oscillator.start(0);
// Stop after 2.5 sec
oscillator.stop(context.currentTime + 2.5);
start
メソッドの引数に 0
を指定していますが, これはメソッドが呼ばれたら, 即時にサウンドを開始します.
stop
メソッドの引数には, AudioContext
インスタンスの currentTime
プロパティに
2.5
を加算した値を指定していますが, これは, stop
メソッドを実行してから, 2.5
秒後に停止することをスケジューリングしています (詳細は, のちほどのセクションで Web Audio API におけるスケジューリングとして解説しますが,
AudioContext
インスタンスの currentTime
は,
AudioContext
インスタンスが生成されてからの経過時間を秒単位で計測した値が格納されています). stop
メソッドの引数も
0
を指定すれば即時にサウンドを停止します. ちなみに, start
メソッド, stop
メソッドもデフォルト値は
0
なので, 引数を省略して呼び出した場合, 即時にサウンドを開始, 停止します.
これで, とりあえず, ブラウザ (Web) で音を鳴らすことができました !
AudioParam
サウンドの入力点と出力点を生成して, それらを接続するだけでは, 元の入力音をそのまま出力するだけなので高度なオーディオ処理はできません. むしろ, Web
Audio API において重要なのは, この入力と出力の間に, 音響変化をさせる AudioNode
を接続することです. 音響変化をさせるためには,
音響変化のためのパラメータを取得・設定したり, 周期的に変化させたり (LFO) できる必要があります. Web Audio API において, その役割を担うのが
AudioParam
クラスです. AudioNode
が現実世界の音響機器と例えをしましたが, それに従うと,
AudioParam
クラスはノブやスライダーなど音響機器のパラメータを設定するコントローラーのようなものです.
AudioParam
クラスは直接インスタンス化することはありません. AudioNode
のプロパティとして,
AudioNode
のサブクラスのインスタンスを生成した時点でインスタンス化されているのでプロパティアクセスで参照することが可能です.
AudioParam
では, 単純なパラメータの取得や設定だけでなく, そのパラメータを周期的に変化させたり (LFO), スケジューリングによって変化させる
(エンベロープジェネレーターなど) ことが可能です (ここはオーナーの経験からですが, Web Audio API で高度なオーディオ処理を実装するためには,
AudioParam
を理解して音響パラメータを制御できるようになるかが非常に重要になっていると思います).
GainNode
AudioParam
の詳細は, のちほどのセクションで解説しますので, このセクションでは, 最初のステップとして,
GainNode
を使って, パラメータの取得・設定を実装します. GainNode
はその命名のとおり,
ゲイン (増幅率), つまり, 入力に対する出力の比率 (入力を 1
としたときに出力の値) を制御するための
AudioNode
で, Web Audio API におけるオーディオ処理で頻繁に使うことになります. このセクションでは, 単純に, GainNode
の
gain
プロパティ (AudioParam
インスタンス) を参照して, そのパラメータを取得・設定してみます (このセクションでは,
音量の制御と考えても問題ありません).
GainNode
も AudioNode
のサブクラスなので, コンストラクタ呼び出し, または, ファクトリメソッドで
GainNode
インスタンスを生成できます.
const context = new AudioContext();
const gain = new GainNode(context);
コンストラクタ呼び出しで生成する場合, 初期パラメータ (GainOptions
) を指定することも可能です.
const context = new AudioContext();
const gain = new GainNode(context, { gain: 0.5 });
ファクトリメソッドで生成する場合.
const context = new AudioContext();
const gain = context.createGain();
GainNode
インスタンスを生成したら, OscillatorNode
と AudioDestinationNode
の間に接続します.
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context);
const gain = new GainNode(context, { gain: 0.5 });
// OscillatorNode (Input) -> GainNode -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(gain);
gain.connect(context.destination);
// Start immediately
oscillator.start(0);
// Stop after 2.5 sec
oscillator.stop(context.currentTime + 2.5);
これで実際にサウンドを発生させると, 音の大きさが小さく聴こえるはずです.
このコードだと, 初期値を変更しているだけなので, 例えば, ユーザー操作によって変更するといったことができないので,
インスタンス生成時以外でパラメータを設定したり, 取得したりする場合は, GainNode
の gain
プロパティを参照します. これは,
先ほども記載したように, AudioParam
インスタンスです. パラメータの取得や設定をするには, その
value
プロパティにアクセスします.
簡単な UI として, 以下の HTML があるとします.
<label for="range-gain">gain</label>
<input type="range" id="range-gain" value="1" min="0" max="1" step="0.05" />
<span id="print-gain-value">1</span>
この input[type="range"]
のイベントリスナーで, input[type="range"]
で入力された値 (JavaScript の
number
型) を gain
(AudioParam
インスタンス) の value
プロパティに設定し, また,
その値を取得して, HTML に動的に表示します.
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context);
const gain = new GainNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(gain);
gain.connect(context.destination);
// Start immediately
oscillator.start(0);
const spanElement = document.getElementById('print-gain-value');
document.getElementById('range-gain').addEventListener('input', (event) => {
gain.value = event.currentTarget.valueAsNumber;
spanElement.textContent = gain.value;
});
AudioParam
のパラメータの取得や設定は, このように, JavaScript のオブジェクトに対するプロパティの getter や setter
と同じなので特に違和感なく理解できるのではないでしょうか.
このセクションでは, Web Audio API の設計の基本となる ((Web Audio API のアーキテクチャを決定づけている), AudioContext
,
AudioNode
, AudioParam
の関係性とそのパラメータの取得・設定の実装のを解説しました. 以降のセクションでは,
ユースケースに応じて, これら 3 つのクラスの詳細についても解説を追加していきます.
「音」とは ?
このセクションでは, そもそも「音」とはなにか ? からスタートして, 音の特性について簡単に解説します. とは言っても, 専門すぎることは解説しないので, Web Audio API を理解するうえで, 最低限の解説をできるだけ簡単に解説します. また, そのため, 厳密さは犠牲にしている解説もあると思います. 音のスペシャリストの方からすると, ちょっと違う ... という部分はたくさんあるかと思いますがご了承ください (ただし, あきらかに間違った解説や誤解を招く可能性のある解説については遠慮なく Issue を作成したり, Pull Requests を送ったりしていただければと思います).
Web Audio API について解説するセクションではないので, 音の特性に関して学んだことあれば, このセクションはスキップしていただくのがよいでしょう.
音の実体
そもそも, 「音」って何なのでしょうか? 結論としては, 音とは媒体の振動が聴覚に伝わったものと定義することができます. 「媒体」というものが抽象的でよくわからないかもしれませんが, 具体的には, 空気や水です. 日常の多くの音は空気を媒体として, 空気の振動が聴覚に伝わることで音として知覚するわけですが, 同じことは水中でも起きますし, 普段聴いている自分の声は骨を媒体にして伝わっている音です.
音のモデリング
音をコンピュータで表現するためには, 媒体の振動を数式で表現して, その数式によって導出される数値を 2 進数で表現できる必要があります. 音の実体は媒体の振動というのを説明しましたが, この振動を表現するのに適した数学的な関数が, sin 関数 です (cos 関数は sin 関数の位相の違いでしかないので本質的に同じと考えてもよいでしょう. また, tan 関数は含まれません. その理由は, π / 2や -π / 2で ∞ や -∞ になるので振動を表現するには都合が悪いからと考えてよいでしょう).
Web Audio APIでも, OscillatorNode
の type
プロパティがとりうる値 (OscillatorType
) の 1 つとして
'sine'
が定義されています.
音を扱う学問や工学では, この sin 関数が, 音の波 (音波) をモデリングしていることから, 正弦波 (sin 波) と呼ぶことが多いです. とちらであっても, 実体は同じなのですが, このドキュメントではこれ以降, 慣習にしたがって, 正弦波 (sin 波) と記述することにします.
正弦波 (sin 波)
ここからは少し数学・物理的な話になってきます. 正弦波 (sin 関数) ってどんな形か覚えてらっしゃいますか?
具体的に解説するためにパラメータを設定します.
振幅と周波数 (周期)
まず, 縦軸に着目してみます. 縦軸のパラメータは, 振幅と呼ばれ, 単位はありません. ちなみに, 振幅 1
の正弦波と表現した場合,
上記のように振幅の最大値が 1
, 最小値が -1
の 正弦波のことを意味しています. 次に, 横軸に着目してみます.
横軸のパラメータは, 時間を表しています. 縦軸との関係で表現すると, ある時刻における正弦波の振幅値を表した図 (グラフ) と言えます. ここで,
パラメータつきの正弦波を見てみます. すると, 山 1 つと谷 1 つを最小の構成として, それが繰り返されている, すなわち,
周期性をもつことがわかります. 数学的には, すべての時間
$t \left(0 \leqq {t} < \infty \right)$ に対して,
$f\left(t + L\right) = f\left(t\right)$ となる定数が存在するとき,
$f\left(t\right)$ は周期 $L$ の周期関数と定義されます. そして, sin
関数は, 周期 $L$ としたとき
$\sin\left(t + L\right) = \sin\left(t\right)$ が成立するので, 正弦波 (sin 関数) は周期関数です.
この波の最小の構成が発生するために要する時間を周期と呼びます. 例として, 上記の正弦波で考えると, 最小の構成の発生までに
1 sec
の時間を要しているので, 周期は 1 sec
となります. この真逆の概念を表す用語が周波数です. すなわち,
1 sec
の間に, 波の最小の構成が何回発生するか ? ということを表し, 単位は Hz (ヘルツ) です. Hz (ヘルツ) という名前ですが,
日本語に翻訳すれば, 何回の「回」に相当するでしょう. 上記の正弦波で考えると. この正弦波は, 1 sec
の間に最小の構成が
1
回発生しているので, 周波数は, 1 Hz
ということになります.
周期と周波数は互いに真逆の概念ですが, これは数学的には, 互いに逆数の関係にあります. すなわち, 周期の逆数は周波数を表し, 周波数の逆数は周期を表します. 互いに関係のある値なので, 周期の話をすれば周波数の話も同時にしていることであり, 周波数の話をすれば周期の話も同時にしていることになります. ただ, 周波数という用語のほうがよく使われる傾向にあると思うので, このドキュメントでは, 周波数の用語を優先的に利用することにします.
少し慣れるために, パラメータ (振幅や周波数) を変えた正弦波 (sin 波) を見てましょう.
いかがでしたか ? 振幅と周波数は Web Audio API の解説においても頻出する用語なので, ある程度理解しておくと, Web Audio API の理解も進むでしょう.
基本波形
OscillatorNode
の type
プロパティ (OscillatorType
) の値は, 正弦波を生成する文字列
'sine'
以外にも, 矩形波を生成する 'square'
やノコギリ波を生成する 'sawtooth'
,
三角波を生成する 'triangle'
があります. 正弦波の形はわかりましたが, それ以外はどのような形をしているのか見てみましょう.
矩形波・ノコギリ波・三角波のいずれも正弦波と同じように, 周期性をもつ波 (関数) であるということです. 周期性をもつので,
周波数の概念を適用することができます. そして, 最も重要な点ですが, 周期性をもつ波は周波数の異なる正弦波を合成してできるということです.
矩形波・ノコギリ波・三角波はいずれも周期性をもちます. 周期性をもつので,
矩形波・ノコギリ波・三角波はいずれも周波数の異なる正弦波を合成して生成することができます. シンセサイザーでも,
正弦波・矩形波・ノコギリ波・三角波は基本波形として, サウンド生成のベースとなる波形です. そして, Web Audio API においても, 基本波形はサウンド生成
(OscillatorNode
) のベースになる波形です.
音の 3 要素
ここまで, 数学・物理的な話が続いたので, 少し気分を変えて, 感覚視点 (知覚) から音を考えてみましょう.
日常でも, 「音が大きい・小さい」, 音楽を聴いていて「音が高い・低い」, 楽器を演奏していて「この楽器の音色が好き」などと表現することがあるかと思います. これらは, 音を感覚視点, すなわち, 音を知覚するときの視点で, どんな音か ? を表現しています. これらの表現にある, 音の大きさ・音の高さ・音色を音の 3 要素と呼びます.
音の 3 要素と, 先に解説した振幅・周波数・波形と大きな関わりがあります.
- 音の大きさ (Loudness)
- 振幅が大きく影響する
- 音の高さ (Pitch)
- 周波数が大きく影響する
- 音色 (Timbre)
- 波形 (エンベロープ) が大きく影響する
大きく影響するという表現に注意してください. 例えば, 音の大きさは振幅のみで決定されるわけではないということです. 知覚は主観的な指標であり, 振幅・周波数・波形は物理量だからです. 物理現象である音と知覚を関連づける指標として, 音響特徴量 (等ラウドネス曲線や基本周波数, セントロイドなど) が知られていますが, Web Audio API を理解するうえでそこまで知っている必要はないので, 詳細を知りたい場合は, これらのキーワードをもとに, より最適なドキュメントや書籍がたくさんあるのでそちらを参考にしてください.
Web Audio API と音の関係
GainNode の gain プロパティと音の大きさ
GainNode
の gain
プロパティ (AudioParam
) を利用することで, 音の大きさを変えることができます.
物理的な視点で見ると, 振幅を操作することによって, 音の大きさを変えています.
OscillatorNode の frequency プロパティと音の高さ
OscillatorNode
の frequency
プロパティ (AudioParam
) を利用することで, 音の高さを変えることができます.
物理的な視点で見ると, 周波数を操作することによって, 音の高さを変更しています.
仕様では, frequency
プロパティのとりうる値の範囲は, 負のナイキスト周波数からナイキスト周波数までですが (ナイキスト周波数は,
サンプリングのセクションで解説しています. ナイキスト周波数について理解がなければ,
おおよそ, -20 kHz
~ 20 kHz
と大雑把に把握していただいて問題ないです),
音楽アプリケーションなどで出力する音としてはそこまで設定できてもあまり意味はないでしょう. その理由は,
人間が聴きとることが可能な音の周波数の範囲は 20 Hz
~ 20000 Hz
(20 kHz
) 程度だからです.
OscillatorNode の detune プロパティと音の高さ
OscillatorNode
の detune
プロパティ (AudioParam
) を利用することでも, 音の高さを変えることができます.
物理的な視点も frequency
プロパティと同じです. ただし, detune
プロパティは, 音楽的な視点で音の高さを変更します.
detune
プロパティの用途は, (音楽で言う) 半音よりも小さい範囲で音の高さを調整したり,
オクターブ違いの音を生成・合成したりするために利用します. この機能によって, きめ細かいサウンド生成が可能になったり,
サウンドを合成する場合において厚みをもたせることが可能になったりします. シンセサイザーのファインチューン機能や, エフェクターの 1
種であるオクターバーを実現するためにあると言えるでしょう.
frequency
プロパティの単位は Hz (ヘルツ) で, 波が 1 sec の間に何回発生するのかを意味していました. 一方で,
detune
プロパティの単位は cent (セント) です. これは, 音楽の視点から音の高さをとらえた単位で,
1 オクターブの音程を 1200 で等分した値です.
1 つ高いラとか, 1 つ低いラのことを, 1 オクターブ高いラ, 1 オクターブ低いラと表現することがあります. 音楽的な視点でのオクターブはまさにそういう意味です.
オクターブを物理的な視点でみると, 周波数比が 1 : 2 の関係にある音程を意味しています. 具体的に説明すると, いわゆる普通のラ (A) (ギターの第 5
弦の開放弦) の周波数は 440 Hz
です (キャリブレーションチューニングなどしている場合は別ですが ...). この音を基準に考えると, 1
オクターブ高いラの周波数は 880 Hz
です. 周波数比が, 440 : 880 = 1 : 2 になります.
話を cent に戻すと, この 1 : 2 の音程を 1200 で割った値が 1 cent
というわけです. なぜ, 1200 ?
と疑問に思う方もいらっしゃると思いますが, ピアノをされる方は直感で理解できると思います. ピアノをされない方のために, 1
オクターブの音程間にピアノの鍵盤がいくつあるか数えてみましょう. 1 オクターブ間であればいいので, 好きな音から始めてください.
数えてみると, 12 個の鍵盤があります. 1 オクターブ間の音程を 1200 で割った (1200 分割した) 値が 1 cent
でしたので, 1
オクターブ間の音程を 12 分割すると, 100 cent
ということになります. つまり, 100 cent
値が高くなると,
右隣の鍵盤の音の高さに変わるということです.
例として, 440 Hz
のラ (A) の音を 100 cent
高くすると, 右隣の鍵盤の ラ# (A#) に, さらに 100 cent
高くすると,
シ (B) になります. このように, -100 cent
~ 100 cent
の間の値を設定することによって,
半音以下の音の高さの調整が可能になるわけです. また, 1200 cent
, あるいは, -1200 cent
と 1200 cent
ごとに値を設定することにより, オクターブ単位で調整することも可能です.
音楽では, 1 オクターブの音程を 12 等分した周波数比の関係を 12 平均音律と呼びます. 12 平均音律においては, 隣り合う音, つまり, 半音の周波数比は,
およそ, 1 : 1.059463 (正確には, 1 : $2^{\left(1 / 12\right)}$) で, これが 100 cent
となるわけです.
OscillatorNode の type プロパティと音色
OscillatorNode
の type
プロパティ (OscillatorType
) の値を利用することで, 正弦波だけでなく,
矩形波やノコギリ波, 三角波を生成することができます. それによって, 音色を変化させることが可能です. ちなみに,
波形の概形はエンベロープと呼ばれます. OscillatorNode
のみで制御可能な範囲では, この
type
プロパティに応じたエンベロープが音色に大きく影響しています.
このセクションのまとめとして, 基本波形, 振幅, 周波数を変化させたときの波形を視覚化するデモとなります. 波形の変化とともに, 知覚する音 (音の 3 要素) の変化を体感してみてください.
OscillatorNode
Web Audio API のアーキテクチャを解説するうえで, OscillatorNode
は少し説明しましたが, このセクションでは, Web Audio API
におけるサウンド生成・合成のベースとなる, OscillatorNode
についてその詳細を解説します.
シンセサイザーの基本波形の生成・合成, モジュレーション系エフェクターで必須となる LFO (Low-Frequency Oscillator) など, Web Audio API
において用途の広い, コアとなる AudioNode
です. LFO に関しては, エフェクターのセクションで解説するので,
このセクションでは基本波形の生成・合成に関して解説します.
type プロパティ (OscillatorOptions)
ただし, 'custom'
のみは特殊で, 直接値を設定するとエラーが発生します. これは, OscillatorNode
の
setPeriodicWave
メソッドによって, 自動的に 'custom'
に設定されます. また, その引数として,
AudioContext
の createPeriodicWave
メソッドで波形テーブルを生成する必要があります. 波形テーブルの生成は,
スペクトルや倍音などオーディオ信号処理の知識が必要になるので, 別のセクションで解説します.
frequency プロパティ (AudioParam) / detune プロパティ (AudioParam)
周波数を制御して音の高さを変更します. frequency プロパティ
と detune
プロパティを合わせて算出される周波数 ($\mathrm{f}_{\mathrm{computed}}$) は, 仕様では以下のように決定されます.
この数式は, frequency
は物理的な視点 (Hz) で周波数を制御, detune
は音楽的な視点 (cent)
で周波数を制御することを意味しています.
start メソッド / stop メソッド
OscillatorNode
のプロパティを設定して音の高さや音色を制御することはそれほど難しくないかと思います. また, 発音し続けるか, 1 度だけ発音
(start
メソッド)・停止 (stop
メソッド) する場合も直感的に実装可能です. おそらく, 多くの場合, ハマってしまうのが,
OscillatorNode
の発音と停止を繰り返す場合です.
OscillatorNode
インスタンスは, 言わば使い捨てなので, 一度発音・停止した OscillatorNode
インスタンスは再度, 発音 (停止)
することはできません. 例えば, ユーザーインタラクティブな操作で発音・停止を繰り返すような場合, OscillatorNode
インスタンスを再生成して,
再度 AudioDestinationNode
に接続して, start
メソッド (stop
メソッド) を実行する必要があります.
例えば, 以下のコードはボタンをクリックするたびに, 発音・停止することを期待していますが, 2 回目のクリック以降は, 発音されずエラーが発生します.
<button type="button">start</button>
const context = new AudioContext();
const oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
// Start immediately
// But, cannot start since the second times ...
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
// Stop immediately
oscillator.stop(0);
buttonElement.textContent = 'start';
});
期待する動作, つまり, 発音・停止を繰り返すするには, 一度 start
・stop
した
OscillatorNode
インスタンスは破棄して, 再度 OscillatorNode
インスタンスを生成します.
const context = new AudioContext();
let oscillator = null;
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if (oscillator !== null) {
return;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
// Start immediately
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if (oscillator === null) {
return;
}
// Stop immediately
oscillator.stop(0);
// GC (Garbage Collection)
oscillator = null;
buttonElement.textContent = 'start';
});
このような仕様なので, start
メソッドを続けて呼んだり, stop
メソッドを続けて呼んだりしても, エラーが発生します.
start
メソッドと stop
メソッドは一対という仕様は, さまざまなプラットフォームのオーディオ API のなかでも Web Audio
API 独自の仕様で, ハマりやすい仕様なので注意してください (そもそも, Web ではないプラットフォームのオーディオ API はここまで抽象化されている API
すら少ないと思います).
基本波形の合成
基本波形の合成, すなわち, Web Audio API における OscillatorNode
の合成は直感的で, 必要なだけ
OscillatorNode
インスタンスを生成して, (最後の) 接続先として AudioDestinationNode
を指定するだけです.
ただし, そのまま合成 (接続) してしまうと, 振幅が大きくなりすぎて, 音割れが発生してしまうので, GainNode
を接続して振幅を調整しています
(逆に, この音割れ (クリッピング) をエフェクトとして使うのが歪み系エフェクトです). もしくは,
DynamicsCompressorNode
を接続して振幅を制御して, 意図しない音割れを防ぐこともできます (ただし, 厳密には,
コンプレッサーは振幅の小さい音も相対的に大きくするので, 物理的にはまったく同じではありません).
const context = new AudioContext();
// C major chord
let oscillatorC = null;
let oscillatorE = null;
let oscillatorG = null;
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if ((oscillatorC !== null) || (oscillatorE !== null) || (oscillatorG !== null)) {
return;
}
oscillatorC = new OscillatorNode(context, { frequency: 261.6255653005991 });
oscillatorE = new OscillatorNode(context, { frequency: 329.6275569128705 });
oscillatorG = new OscillatorNode(context, { frequency: 391.9954359817500 });
const gain = new GainNode(context, { gain: 0.25 });
// OscillatorNode (Input) -> GainNode -> AudioDestinationNode (Output)
oscillatorC.connect(gain);
oscillatorE.connect(gain);
oscillatorG.connect(gain);
gain.connect(context.destination);
// Start immediately
oscillatorC.start(0);
oscillatorE.start(0);
oscillatorG.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if ((oscillatorC === null) || (oscillatorE === null) || (oscillatorG === null)) {
return;
}
// Stop immediately
oscillatorC.stop(0);
oscillatorE.stop(0);
oscillatorG.stop(0);
// GC (Garbage Collection)
oscillatorC = null;
oscillatorE = null;
oscillatorG = null;
buttonElement.textContent = 'start';
});
AudioBufferSourceNode
AudioBufferSourceNode
は, ワンショットオーディオの再生を目的に利用します. ワンショットオーディオとは,
ピアノやギターなど実際の楽器の音源を収録した WAVE ファイルや MP3 ファイルのことです. Web Audio API の仕様では, ユースケースとして,
楽曲データに関しては, MediaElementAudioSourceNode
を利用することを想定しているので, この点は注意が必要です. ただし,
AudioBufferSourceNode
を楽曲データの再生に使うこともできます. 現実解としてユースケースに反した利用をすることも多いです (これは,
AudioBufferSourceNode
がオーディオデータの実体である AudioBuffer
インスタンスをもつので,
オーディオ信号処理が適用しやすいことが理由として考えられます).
このセクションでは, 仕様上のユースケースであるワンショットオーディオの再生を目的に, AudioBufferSourceNode
を解説します.
ところで, ワンショットオーディオの再生であれば, 同じことは HTMLAudioElement
(audio
タグ) でも可能な場合もあります. 事実, Web
Audio API が仕様策定される以前は, そのようなユースケースも想定して, Audio
コンストラクタが定義されています. しかしながら,
HTMLAudioElement
(Audio
コンストラクタ) によるワンショットオーディオの再生は以下のような問題があります.
- JavaScript のタイマー (
setInterval
やsetTimeout
) では, 正確なスケジュールングが難しい HTMLAudioElement
のイベントハンドラでも精度が粗く, 正確なスケジュールングが難しい- 同時発音数の制限
- ワンショットオーディオに対して, さらにオーディオ処理を付加したいユースケース
これらの問題を, ある程度容易に解決してくれるのが AudioBufferSourceNode
です (もっとも, AudioBufferSourceNode
を利用しても,
コンピュータのリソースは有限なので, 計算量が多い場合や他のプロセスがリソースを多く消費している場合などは,
少なからずスケジューリングも正確でなくなります).
buffer プロパティ
AudioBufferSourceNode
において, 最も重要と言えるのが, buffer
プロパティであり, これは,
AudioBuffer
インスタンスを参照します. AudioBuffer
とは, オーディオデータの実体 (を抽象化するクラス) です.
AudioBuffer
AudioBuffer
クラスは, オーディオデータの実体ですが, 直接的にアクセスすることはできません. そのためのメソッドや,
デジタル化されたオーディオデータに必要なパラメータ (サンプリングレートやチャンネル数, オーディオデータ全体のサイズなど) を定義しています.
sampleRate プロパティ
サンプリング周波数です. これは, AudioContext
インスタンスのsampleRate
プロパティと同じ値です. つまり,
注意しておきたいのは, オーディオデータのサンプリグ周波数ではなということです (ちなみに,
なぜこのような仕様なのかこのサイトのオーナーも理解できていません. 直感的にはオーディオデータのサンプリング周波数に思いますが).
length プロパティ
1 チャネルにおける, オーディオデータのサイズです. つまり, sampleRate
プロパティの逆数であるサンプリング周期
と
length
プロパティを乗算した値が, オーディオデータの再生時間となります (次に解説する,
duration
プロパティの値と同じになります).
duration プロパティ
オーディオデータの再生時間 (単位は sec
) です. 先ほど解説したように, sampleRate
プロパティと
length
プロパティと関連している値となります.
numberOfChannels プロパティ
オーディオデータのチャンネル数です. 例えば, モノラルであれば 1
, ステレオであれば 2
, 5.1 チャンネルであれば
6
になります. 次に解説する, getChannelData
メソッドの引数の上限を決めている値になっています.
getChannelData メソッド
getChannelData
メソッドで引数で指定したチャンネルのオーディオデータを Float32Array
として取得することが可能です.
引数となるチャンネルの指定は 0
から numberOfChannels - 1
までです. 例えば, ステレオ (numberOfChannels
が
2
)であれば, getChannelData(0)
で左チャンネルのオーディオをデータを Float32Array
で取得し,
getChannelData(1)
で右チャンネルのオーディオデータをFloat32Array
で取得することができます.
copyFromChannel メソッド / copyToChannel メソッド
他に, AudioBuffer
をコピーするためのメソッドがあります. ワンショットオーディオの再生においてはおそらく使うことはないので,
必要であれば, 仕様や MDN などを参考にしてください.
AudioBuffer の生成
AudioBuffer
クラスに関して簡単に解説しましたが, 肝心なのは
AudioBuffer
インスタンスをどうやって生成するのかということだと思います. Web Audio API では,
decodeAudioData
メソッドを利用するか, createBuffer
メソッドを利用することによって,
AudioBuffer
インスタンスを生成可能です.
もっとも, ワンショットオーディオ再生目的であれば, createBuffer
メソッドを利用することはおそらくなく,
ArrayBuffer
インスタンスから AudioBuffer
インスタンスを生成する
decodeAudioData
メソッドを利用することになると思います. したがって, まずは,
ArrayBuffer
インスタンスの取得に関して解説します (これは Web Audio API の解説というよりは, JavaScript で
ArrayBuffer
インスタンスを取得する方法なので, すでにご存知の場合はスキップして問題ないです).
ArrayBuffer の取得と decodeAudioData メソッド
クライアントサイド JavaScript で ArrayBuffer
を取得するには, Web にあるリソースであれば, Fetch API
(もしくは,
XMLHttpRequest
), ユーザーのファイルシステムから選択するのであれば File API
と
FileReader API
を使うことになります.
ワンショットオーディオ再生の場合, アプリケーション側であらかじめオーディオデータを Web にアップロードしているケースがほとんどなので,
このセクションでは, Fetch API
で ArrayBuffer
を取得する実装を解説します.
Fetch API
は, fetch
関数, Headers
オブジェクト, Request
オブジェクト,
Response
オブジェクトの総称ですが, ほとんどのケースで明示的に利用するのは, fetch
関数の呼び出しです.
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
// TODO: Create instance of `ArrayBuffer` by calling `decodeAudioData`
})
.catch((error) => {
// error handling
});
fetch
関数のデフォルトの HTTP メソッドは GET なので, ワンショットーオーディオの取得であれば, そのリソースの URL
を指定すればよいでしょう. あとは, 取得した Response
オブジェクトの arrayBuffer
メソッドを呼び出して,
ArrayBuffer
インスタンスを取得するだけです. いずれの関数・メソッドも, Promise
を返します. 可読性重視などであれば,
async
/await
で実装してもよいでしょう.
ArrayBuffer
インスタンスが取得できたら, AudioContext
インスタンスの decodeAudioData
メソッドの第 1
引数に, ArrayBuffer
インスタンスを指定して, 第 2 引数に, 成功時のコールバック関数を指定します. このコールバック関数の引数に,
AudioBuffer
インスタンスが渡されます. 失敗した場合, 第 3 引数のコールバック関数が実行されます. このコールバック関数の引数には,
DOMException
インスタンスが渡されます.
const context = new AudioContext();
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
const successCallback = (audioBuffer) => {
// Create instance of `AudioBufferSourceNode`
};
const errorCallback = (error) => {
// error handling
};
context.decodeAudioData(arrayBuffer, successCallback, errorCallback);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
初期の頃は上記のような仕様でしたが, 最新の仕様では, 成功時は Promise<AudioBuffer>
を返すので, 戻り値から
AudioBuffer
インスタンスを取得することも可能です.
decodeAudioData
メソッドの実行で 1 つ注意しなければならないのは, decodeAudioData
メソッドも
Autoplay Policy の影響を受けるということです. したがって,
ユーザーインタラクティブなイベント発生後に実行する必要があります.
createBuffer メソッド
AudioBuffer
インスタンスを生成するには, AudioContext
インスタンスの
createBuffer
メソッドを利用することでも可能です. 引数は, 第 1 引数にチャンネル数, 第 2 引数に 1
チャンネルのオーディオデータのサイズ, 第 3 引数にサンプリング周波数を指定します. しかしながら, インスタンスは生成できるものの,
オーディオデータをもっているわけではないので, ワンショットーオーディオの再生において利用することはないでしょう. ユースケースとしては,
オーディオデータから生成した AudioBuffer
インスタンスからコピー (copyFromChannel
メソッドや
copyToChannel
メソッドが必要なケース) が考えられます.
これで, ワンショットオーディオを再生する最低限の処理ができているので, あとは AudioBufferSourceNode
のインスタンスを生成します
(ファクトリメソッドで生成する場合, createBufferSource
メソッドを利用します).
const context = new AudioContext();
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
const successCallback = (audioBuffer) => {
const source = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer: audioBuffer });
// If use `createBufferSource`
// const source = context.createBufferSource();
//
// source.buffer = audioBuffer;
};
const errorCallback = (error) => {
// error handling
};
context.decodeAudioData(arrayBuffer, successCallback, errorCallback);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
playbackRate プロパティ / detune プロパティ
音楽用途でワンショットオーディオを使う場合, 対応するピッチの数だけ, ワンショットオーディオデータを作成するのは大変ですし, また, HTTP
リクエストの送受信や decodeAudioData
メソッドの実行も多くなってしまうのでパフォーマンス的にもよくありません. それを解決するのが,
playbackRate
プロパティと detune
プロパティです. これらは, 音の物理的な性質, つまり,
再生速度を変化させるとピッチも変化するという性質を利用して, ピッチ (と再生時間) を変更します. 例えば, playbackRate
を
2
に設定すれば, ピッチも 2 倍, つまり, 1 オクターブ高いピッチのオーディオデータの再生を同一の
AudioBuffer
インスタンスから可能です. detune
は, cent 単位でピッチを変更します. ピッチを変更すると,
再生時間も変わりますが, ワンショットオーディオは再生時間が短時間なので, この点が問題になることはほとんどないでしょう. いずれも,
AudioParam
インスタンスなので, 値を取得したり, 設定する場合は, value
プロパティにアクセスします.
playbackRate
プロパティと detune
プロパティを考慮した, 実際の再生速度
$\mathrm{p}_{\mathrm{computed}}$は, 仕様では以下のように決定されます.
loop プロパティ / loopStart プロパティ / loopEnd プロパティ
ワンショットオーディオをループ再生させたい場合, loop
プロパティを true
に設定します. また, loop
プロパティを
true
に設定することで, loopStart
プロパティと loopEnd
プロパティが有効になります. これらのプロパティは,
ループ再生するオーディオデータの開始位置, 終了位置を秒単位で指定します.
start メソッド / stop メソッド
AudioBufferSourceNode
インスタンスは, 言わば使い捨てなので, 一度発音・停止した AudioBufferSourceNode
インスタンスは再度,
発音 (停止) することはできません. 例えば, ユーザーインタラクティブな操作で発音・停止を繰り返すような場合,
AudioBufferSourceNode
インスタンスを再生成して, 再度 AudioDestinationNode
に接続して, start
メソッド (stop
メソッド) を実行する必要があります. この仕様は, OscillatorNode
とまったく同じです (ただし,
AudioBuffer
インスタンスは使い回すことが可能です).
例えば, 以下のコードはボタンをクリックするたびに, 再生・停止することを期待していますが, 2 回目のクリック以降は, 再生されずエラーが発生します.
<button type="button">start</button>
const context = new AudioContext();
const source = new AudioBufferSourceNode(context);
// AudioBufferSourceNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(context.destination);
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if (source.buffer === null) {
return;
}
// Start immediately
// But, cannot start since the second times ...
source.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if (source.buffer === null) {
return;
}
// Stop immediately
source.stop(0);
buttonElement.textContent = 'start';
});
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
const successCallback = (audioBuffer) => {
source.buffer = audioBuffer;
};
const errorCallback = (error) => {
// error handling
};
context.decodeAudioData(arrayBuffer, successCallback, errorCallback);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
期待する動作, つまり, 再生・停止を繰り返すには, 一度 start
・stop
した (あるいは, duration
まで再生した)
AudioBufferSourceNode
インスタンスは破棄して, 再度 AudioBufferSourceNode
インスタンスを生成します.
const context = new AudioContext();
let source = null;
let buffer = null;
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if (buffer === null) {
return;
}
source = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
// AudioBufferSourceNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(context.destination);
// Start immediately
source.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if ((buffer === null) || (source === null)) {
return;
}
// Stop immediately
source.stop(0);
buttonElement.textContent = 'start';
});
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
const successCallback = (audioBuffer) => {
buffer = audioBuffer;
};
const errorCallback = (error) => {
// error handling
};
context.decodeAudioData(arrayBuffer, successCallback, errorCallback);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
ワンショットオーディオも, 複数の AudioBufferSourceNode
インスタンスを AudioDestinationNode
に接続することで合成が可能です
(そのまま合成 (接続) してしまうと, 振幅が大きくなりすぎて, 音割れが発生してしまうので, GainNode
を接続して振幅を調整しています).
また, 3 つの AudioBufferSourceNode
インスタンスで, それぞれ detune
プロパティの値を調整して, C
メジャーコードを再生しています.
const context = new AudioContext();
// C major chord
let sourceC = null;
let sourceE = null;
let sourceG = null;
let buffer = null;
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if (buffer === null) {
return;
}
sourceC = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
sourceE = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
sourceG = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
sourceC.detune.value = 0;
sourceE.detune.value = 400;
sourceG.detune.value = 700;
const gain = new GainNode(context, { gain: 0.25 });
// AudioBufferSourceNode (Input) -> GainNode -> AudioDestinationNode (Output)
sourceC.connect(gain);
sourceE.connect(gain);
sourceG.connect(gain);
gain.connect(context.destination);
// Start immediately
sourceC.start(0);
sourceE.start(0);
sourceG.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if ((buffer === null) || (sourceC === null) || (sourceE === null) || (sourceG === null)) {
return;
}
// Stop immediately
sourceC.stop(0);
sourceE.stop(0);
sourceG.stop(0);
buttonElement.textContent = 'start';
});
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
const successCallback = (audioBuffer) => {
buffer = audioBuffer;
};
const errorCallback = (error) => {
// error handling
};
context.decodeAudioData(arrayBuffer, successCallback, errorCallback);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
AudioBufferSourceNode
でも, start
メソッドと stop
メソッドは一対という仕様は,
さまざまなプラットフォームのオーディオ API のなかでも Web Audio API 独自の仕様で, ハマりやすい仕様なので注意してください (そもそも, Web
ではないプラットフォームのオーディオ API はここまで抽象化されている API すら少ないと思います).
MediaElementAudioSourceNode
Web Audio API において, 楽曲データに対してなんらかのオーディオ信号処理を適用したい場合に利用するのが
MediaElementAudioSourceNode
です. もっと言ってしまえば, HTMLMediaElement
(HTMLAudioElement
や
HTMLVideoElement
) のオーディオデータに対するオーディオ信号処理を適用する場合に利用します.
HTMLMediaElement
を音源にするので, MediaElementAudioSourceNode
のコンストラクタ (もしくは, ファクトリメソッドの
createMediaElementSource
) には, HTMLMediaElement
を引数に指定する必要があります.
<!-- シューベルト 交響曲 第8番 ロ短調 D759 「未完成」 第1楽章 (余談ですが, X JAPAN の「ART OF LIFE」のモチーフになっている楽曲です) -->
<audio src="https://korilakkuma.github.io/Web-Music-Documentation/assets/medias/Schubert-Symphony-No8-Unfinished-1st-2020-VR.mp3" controls />
const context = new AudioContext();
const audioElement = document.querySelector('audio');
const source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
// If use `createMediaElementSource`
// const source = context.createMediaElementSource(audioElement);
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(context.destination);
MediaElementAudioSourceNode
インスタンス生成には 2 点注意すべき点があります. 上記のサンプルコードのように,
HTMLMediaElement
に HTML パース時点で, src
属性にメディアファイルが指定されている場合は, 特に問題ありませんが,
インタラクティブに, 例えば, ユーザーのファイルシステムからメディアファイルを選択するような場合,
HTMLMediaElement
の loadstart
イベント発火以降にインスタンスを生成する必要があります (逆に, HTML パース時点で
src
属性にメディアファイルを指定している場合, loadstart
イベントは発火しないので注意が必要です).
loadstart
イベント以降に発火するイベントであればよいので, canplaythrough
イベントハンドラなどで
MediaElementAudioSourceNode
インスタンスを生成してもよいでしょう.
<input type="file" />
<audio controls />
const context = new AudioContext();
const inputElement = document.querySelector('input[type="file"]');
const audioElement = document.querySelector('audio');
inputElement.addEventListener('change', (event) => {
const file = event.currentTarget.files[0];
audioElement.src = window.URL.createObjectURL(file);
});
audioElement.addEventListener('loadstart', () => {
const source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(context.destination);
});
もう 1 点は, 1 つの HTMLMediaElement
に対して 1 つの MediaElementAudioSourceNode
インスタンスが対応しているという点です.
例えば, HTMLMediaElement
の src
属性のみを変更する場合,
MediaElementAudioSourceNode
インスタンスを再度生成するとエラーが発生します (逆に, 別のオブジェクトとなる
HTMLMediaElement
を指定する場合, MediaElementAudioSourceNode
インスタンスを生成する必要があります).
したがって, 先ほどのサンプルコードだと, 2 回以上, ファイルを選択してしまうと, 同じ HTMLAudioElement
に対して, 複数回
MediaElementAudioSourceNode
インスタンスが生成されてエラーが発生してしまうので, 以下のように変更します.
また, File API
から選択した楽曲データを, HTMLMediaElement
の src
属性に指定する場合, Object URL を利用します
(FileReader API
を使って Data URL を利用しても可能ですが, 実装が増えるだけなので, なんらかの理由がなければ
createObjectURL
を利用して Object URL を設定するのがよいでしょう).
<input type="file" />
<audio controls />
const context = new AudioContext();
const inputElement = document.querySelector('input[type="file"]');
const audioElement = document.querySelector('audio');
let source = null;
inputElement.addEventListener('change', (event) => {
const file = event.currentTarget.files[0];
audioElement.src = window.URL.createObjectURL(file);
// If use Data URL,
//
// const reader = new FileReader();
//
// reader.onload = () => {
// audioElement.src = reader.result;
// };
//
// reader.readAsDataURL(file);
});
audioElement.addEventListener('loadstart', () => {
if (source === null) {
source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
}
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(context.destination);
});
再生と停止
MediaElementAudioSourceNode
に楽曲データを再生・停止するためのメソッドはありません. 再生や一時停止は, コンストラクタの引数に指定した
HTMLMediaElement
の play
/ pause
メソッドを実行します. したがって, OscillatorNode
や
AudioBufferSourceNode
のように使い捨てのノードではない, つまり, インスタンスを再度生成して
AudioDestinationNode
に再度接続する必要もないので, この点は直感的な仕様と言えます.
あとは, AudioDestinationNode
に接続すれば, 再生・停止することは簡単ですが, これでは
HTMLMediaElement
をそのまま利用するほうが合理的なので, 簡易例として, オーディオ信号処理を適用していることがわかるように,
BiquadFilterNode
を利用して Low-Pass Filter (低域通過フィルタ) を使ったサンプルコードです. カットオフ周波数を変更すると,
音の輪郭が変わることを確認してみてください (BiquadFilterNode
に関しては, 別のセクションで詳細を解説します).
<label for="range-cutoff">cutoff</label>
<input type="range" id="range-cutoff" value="4000" min="350" max="8000" step="1" />
<span id="print-cutoff-value">4000 Hz</span>
<input type="file" />
<audio controls />
const context = new AudioContext();
const inputElement = document.querySelector('input[type="file"]');
const audioElement = document.querySelector('audio');
const inputCutoffElement = document.getElementById('range-cutoff');
const spanElement = document.getElementById('print-cutoff-value');
let source = null;
const lowpass = new BiquadFilterNode(context, { type: 'lowpass', frequency: 4000 });
inputElement.addEventListener('change', (event) => {
const file = event.currentTarget.files[0];
audioElement.src = window.URL.createObjectURL(file);
// If use Data URL,
//
// const reader = new FileReader();
//
// reader.onload = () => {
// audioElement.src = reader.result;
// };
//
// reader.readAsDataURL(file);
});
inputCutoffElement.addEventListener('input', (event) => {
lowpass.frequency.value = event.currentTarget.valueAsNumber;
spanElement.textContent = `${lowpass.frequency.value} Hz`;
});
// UI (by `controls` attribute) plays and pauses media
audioElement.addEventListener('loadstart', () => {
if (source === null) {
source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
}
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> BiquadFilterNode (Low-Pass Filter) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(lowpass);
lowpass.connect(context.destination);
});
HTMLMediaElement と MediaElementAudioSourceNode
すでにサンプルコードを実行して, お気づきになったかもしれませんが,
HTMLMediaElement
のプロパティやイベントハンドラはすべて利用することが可能です. volume
や muted
,
playbackRate
は再生する楽曲データそのものに影響します. autoplay
や loop
は再生における UX に影響します. また,
実際のプロダクトでは, loadedmetadata
イベント, canplaythrough
イベント, timeupdate
イベント,
ended
イベントなどで, UI を更新するイベントハンドラを実行することも多いでしょう. このドキュメントですべてを解説することはできないので,
HTMLMediaElement
の仕様などを参考にしてください.
よくある実装として, loadedmetadata
イベントで duration
プロパティ (トータルの再生時間秒数) を取得,
timeupdate
イベントで currentTime
プロパティ (現在の再生位置) を更新,
ended
イベントで初期表示に戻すというのは Web Audio API に直接関係はありませんが, メディアデータをあつかう Web
アプリケーションでは必須になるような実装なので理解しておいて損はないでしょう. また, MediaElementAudioSourceNode
の解説に着目するために
HTMLMediaElement
の controls
属性での UI で再生・一時停止を実装していましたが,
再生・停止ボタンも実装したサンプルコードです. コードをご覧になると理解できるかもしれませんが, Web Audio API
のコードは変更されていないことにも着目してみてください.
<button type="button">play</button>
<span id="print-current-time">00 : 00</span> / <span id="print-duration">00 : 00</span>
<input type="file" />
<label for="range-cutoff">cutoff</label>
<input type="range" id="range-cutoff" value="4000" min="350" max="8000" step="1" />
<span id="print-cutoff-value">4000 Hz</span>
<audio />
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const inputElement = document.querySelector('input[type="file"]');
const audioElement = document.querySelector('audio');
const spanCurrentTimeElement = document.getElementById('print-current-time');
const spanDurationElement = document.getElementById('print-duration');
const inputCutoffElement = document.getElementById('range-cutoff');
const spanCutoffElement = document.getElementById('print-cutoff-value');
let source = null;
const lowpass = new BiquadFilterNode(context, { type: 'lowpass', frequency: 4000 });
inputElement.addEventListener('change', (event) => {
const file = event.currentTarget.files[0];
audioElement.src = window.URL.createObjectURL(file);
// If use Data URL,
//
// const reader = new FileReader();
//
// reader.onload = () => {
// audioElement.src = reader.result;
// };
//
// reader.readAsDataURL(file);
});
inputCutoffElement.addEventListener('input', (event) => {
lowpass.frequency.value = event.currentTarget.valueAsNumber;
spanCutoffElement.textContent = `${lowpass.frequency.value} Hz`;
});
audioElement.addEventListener('loadstart', () => {
if (source === null) {
source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
}
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> BiquadFilterNode (Low-Pass Filter) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(lowpass);
lowpass.connect(context.destination);
});
audioElement.addEventListener('loadedmetadata', () => {
spanDurationElement.textContent = `${Math.trunc(audioElement.duration / 60).toString(10).slice(0, 2).padStart(2, '0')} : ${(Math.trunc(audioElement.duration) % 60).toString(10).slice(0, 2).padStart(2, '0')}`;
});
audioElement.addEventListener('timeupdate', () => {
spanCurrentTimeElement.textContent = `${Math.trunc(audioElement.currentTime / 60).toString(10).slice(0, 2).padStart(2, '0')} : ${(Math.trunc(audioElement.currentTime) % 60).toString(10).slice(0, 2).padStart(2, '0')}`;
});
audioElement.addEventListener('ended', () => {
spanCurrentTimeElement.textContent = '00 : 00';
});
buttonElement.addEventListener('click', async () => {
if (audioElement.paused) {
await audioElement.play();
buttonElement.textContent = 'pause';
} else {
audioElement.pause();
buttonElement.textContent = 'play';
}
});
MediaStreamAudioSourceNode
Web Audio API において, マイクロフォンやオーディオインターフェースに入力されたサウンドデータに対して,
なんらかのオーディオ信号処理を適用したい場合に利用するのが MediaStreamAudioSourceNode
です. もっと言ってしまえば,
WebRTC (MediaDevices
の getUserMedia
メソッドで取得できる MediaStream
インスタンス)
で取得したサウンドデータに対するオーディオ信号処理を適用する場合に利用します.
WebRTC の仕様は Web Audio API と同等かそれ以上に膨大ですが, Web Audio API との関係で言えば, MediaDevices
の
getUserMedia
メソッドを理解すれば問題ないでしょう.
getUserMedia
メソッドの引数には
MediaStreamConstraints
を指定します (少なくとも, Web Audio API で利用することを想定するので, audio
は true
にしておきます). 初回実行時は,
マイクロフォン (もしくは, 選択したオーディオインターフェース) に対するアクセス許可を求めるダイアログが表示されます. アクセスを許可して問題なければ,
戻り値の Promise
が fulfilled
状態になります. 成功時の Promise
のコールバック関数の引数に
MediaStream
インスタンスが渡されるので, そのインスタンスを MediaElementAudioSourceNode
コンストラクタ
(もしくはファクトリメソッドの createMediaStreamSource
の引数) に指定します
あとは, MediaStreamAudioSourceNode
インスタンスを AudioDestinationNode
に接続すれば, WebRTC
からのサウンドデータを出力することが可能です.
const context = new AudioContext();
const constraints = {
audio: true
};
navigator.mediaDevices.getUserMedia(constraints)
.then((stream) => {
const source = new MediaStreamAudioSourceNode(context, { mediaStream: stream });
// If use `createMediaStreamSource`
// const source = context.createMediaStreamSource(stream);
// MediaStreamAudioSourceNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(context.destination);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
もちろん, オーディオ信号処理を適用しないのであれば, WebRTC だけを利用するほうが合理的なので, 簡易例として,
オーディオ信号処理を適用していることがわかるように, BiquadFilterNode
を利用して Low-Pass Filter (低域通過フィルタ)
を使ったサンプルコードです. カットオフ周波数を変更すると, 音の輪郭が変わることを確認してみてください (BiquadFilterNode
に関しては,
別のセクションで詳細を解説します).
const context = new AudioContext();
const constraints = {
audio: true
};
navigator.mediaDevices.getUserMedia(constraints)
.then((stream) => {
const source = new MediaStreamAudioSourceNode(context, { mediaStream: stream });
// If use `createMediaStreamSource`
// const source = context.createMediaStreamSource(stream);
const lowpass = new BiquadFilterNode(context, { type: 'lowpass', frequency: 4000 });
// MediaStreamAudioSourceNode (Input) -> BiquadFilterNode (Low-Pass Filter) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(lowpass);
lowpass.connect(context.destination);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
デバイスの破棄
MediaStreamAudioSourceNode
には, オーディオデバイスがらの入力を停止するためのメソッドはありません. デバイスを破棄するには,
MediaStream
インスタンスの getAudioTracks
メソッドで, オーディオデバイスの実体である
MediaStreamTrack
インスタンスの配列を取得します. MediaStreamTrack
には, デバイスを破棄するための
stop
メソッドが実装されているので, 対象の MediaStreamTrack
インスタンスで stop
メソッドを実行します
(同様に, ビデオデバイスを停止するには getVideoTracks
メソッドで MediaStreamTrack
インスタンスの配列を取得します).
const context = new AudioContext();
const constraints = {
audio: true
};
navigator.mediaDevices.getUserMedia(constraints)
.then((stream) => {
const source = new MediaStreamAudioSourceNode(context, { mediaStream: stream });
// If use `createMediaStreamSource`
// const source = context.createMediaStreamSource(stream);
const lowpass = new BiquadFilterNode(context, { type: 'lowpass', frequency: 4000 });
// MediaStreamAudioSourceNode (Input) -> BiquadFilterNode (Low-Pass Filter) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(lowpass);
lowpass.connect(context.destination);
window.setTimeout(() => {
const audioTracks = stream.getAudioTracks();
for (const audioTrack of audioTracks) {
audioTrack.stop();
}
}, 10000);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
AudioWorklet
Web Audio API には, 基本波形のサウンド生成やエフェクター, サウンドの視覚化など高度なサウンド処理をより簡単に実装するために, 様々な
AudioNode
が定義されています. これらの AudioNode
があるおかげで, 内部で実行されているオーディオ信号処理の詳細を知らなくても,
高度なサウンド機能の実装が簡単にできるわけです. 例えば, 正弦波の数式を知らなくても,
OscillatorNode
によって正弦波を生成することができました.
Web Audio API が定義する多くの AudioNode
は, サウンドデータの実体にアクセスする機能をもちません. なぜなら, AudioNode
(と,
AudioNode
がもつ AudioParam
) は, サウンド処理を抽象化する, つまり, 抽象度の高い API として定義されているからです.
しかしながら, その代償として, AudioNode
の接続と AudioParam
の制御では不可能なオーディオ処理も存在してしまいます.
現状の仕様に合わせて具体的に記載すると, ノイズ生成, ノイズゲート, ノイズサプレッサー, ボーカルキャンセラー, ピッチシフターなどは
AudioNode
の接続と AudioParam
の制御のみでは実装できないので, 直接サウンドデータにアクセスできる必要があります.
直接サウンドデータにアクセスすることを可能にするのが, (広義の) AudioWorklet
です (狭義には
AudioWorklet
クラスを意味するので). AudioWorklet
は複数の API で構成されており, メインスレッドで
AudioNode
を継承する AudioWorkletNode
, オーディオスレッド (AudioWorkletGlobalScope
) で直接サウンドデータにアクセスすることを可能にする AudioWorkletProcessor
, メインスレッドからオーディオスレッドのファイルをロードする AudioContext
インスタンスがもつ
AudioWorklet
インスタンスです.
AudioWorkletNode
メインスレッドで定義されていて, AudioNode
クラスを継承しています. AudioWorkletNode
を
AudioNode
に接続することで, AudioWorkletProcessor
(の process
メソッド)
で実装したオーディオ信号処理が適用されて, 次に接続している AudioNode
への入力として出力されます.また, AudioNode
を
AudioWorkletNode
に接続することで, AudioWorkletProcessor
に入力サウンドデータとして渡して,
オーディオ信号処理を適用することも可能です.
AudioWorkletNode
コンストラクタの第 1 引数には, AudioContext
インスタンスを指定し, 第 2 引数には,
AudioWorkletGlobalScope
(オーディオスレッド) で registerProcessor
メソッドで指定した文字列を指定します.
AudioWorkletNode
インスタンスを生成するのは, AudioWorklet
インスタンスの
addModule
メソッド成功後に実行する必要があります (また, 後発な API であるので,
ファクトリメソッドによるインスタンス生成も仕様定義されていないことに注意してください).
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/processor.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/processor.js')
.then(() => {
const processor = new AudioWorkletNode(context, 'NoiseGeneratorProcessor');
// AudioWorkletNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
processor.connect(context.destination);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
AudioWorkletGlobalScope
AudioWorklet はその API の仕様設計上, メインスレッドとは別のオーディオスレッドを専用に生成することになります.
このオーディオスレッドのグローバルスコープが AudioWorkletGlobalScope
です. つまり, メインスレッドにおける
Window
に相当します. メインスレッドとは別の世界なので, 直接 DOM にはアクセスできなかったり,
メインスレッドで使えるようなクライアントサイド JavaScript API が利用できなかったりします. AudioWorkletGlobalScope
には,
sampleRate
プロパティや currentTime
プロパティが定義されていますが, これはメインスレッドの
AudioContext
インスタンスと同値です.
registerProcessor メソッド
AudioWorkletGlobalScope
で定義されている, 最も重要なメソッドが registerProcessor メソッドです. メインスレッドの
AudioWorkletNode
と, オーディオスレッドの AudioWorkletProcessor
を継承したクラスを関連づける役割をもっているからです. 第
1 引数に, AudioWorkletNode
のコンストラクタに関連づける文字列を, 第 2 引数に,
AudioWorkletProcessor
を継承したクラスを指定します (インスタンスではないので注意してください).
// Filename is './audio-worklets/processor.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
}
process(inputs, outputs, parameters) {
// TODO: Audio Signal Processing
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
AudioWorkletProcessor
AudioWorkletProcessor の継承クラス
AudioWorklet
を構成する API で, 実際にオーディオ信号処理を実行するのが,
AudioWorkletProcessor
クラスを継承したサブクラスです (AudioWorkletProcessor
を継承したサブクラスを).
AudioWorkletProcessor
クラスで最も重要な API が process
メソッドです.
AudioWorkletProcessor
を継承するサブクラスは process
メソッドを必ずオーバライドする必要があります.
また, 実用的なことを考慮すると, MessagePort
インスタンスであるport
プロパティも事実上, 必須と言えます.
AudioWorkletGlobalScope
に定義されている AudioWorkletProcessor
(を継承したサブクラス) は, メインスレッドで設定された値
(例えば, input[type="range"]
で設定された値) を直接的に取得することができません. そこで,
MessagePort
インススタンスの messssage
イベントハンドラや postMessage
メソッドを利用して,
いわゆる メッセージパッシング (Message Passing) でメインスレッドとデータを送受信する必要があります.
process メソッド
process
メソッドの 第 1 引数には入力サウンドデータとなる Float32Array
, 第 2 引数には出力サウンドデータとなる
Float32Array
, 第 3 引数には, 独自に AudioParam
を定義する場合にパラメータとなる
Float32Array
がそれぞれ渡されます. これらの Float32Array
のサイズは, すべて 128
(サンプル) です
(詳細は,
a-rate
と k-rate
(AutomationRate
) を参照してください).
また, 第 1 引数と第 2 引数 (入力サウンドデータと出力サウンドデータ) は, 実際には,
FrozenArray<FrozenArray<Float32Array>>
と配列の入れ子になっています (仕様上の定義として
FrozenArray
ですが, 実装上は Array
です. 1 つ内側の Array
がチャンネルごとの
Float32Array
を格納するためです).
AudioWorkletNode
に接続している AudioNode
がなければ第 1 引数は不要です. よって, 必須となるのは,
出力サウンドデータである, 128 サンプルの Float32Array
にオーディオ信号処理を適用した値を格納していくことです.
そのミニマムな実装例として, ホワイトノイズ (白色雑音) を生成する process
メソッドのサンプルコードを記載します.
ちなみに, 2 つの Array
(FrozenArray
) の入れ子になっているので, 形式的に, 入力サウンドデータ, 出力サウンドデータともに,
0 番目の Array<Float32Array>
(FrozenArray<Float32Array>
) を取得すると理解していただいて問題ないでしょう
(なぜこのような仕様になっているのかは, オーナーは理解できていません).
// Filename is './audio-worklets/processor.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
}
process(inputs, outputs, parameters) {
// channel number is 0, 1, 2 ...
// `output` is `[Float32Array, Float32Array, Float32Array ...]`
const output = outputs[0];
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
output[channelNumber][n] = (2 * Math.random()) - 1;
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
ちなみに, process
メソッドの戻り値は boolean
ですが, ここは形式的に,
true
を返すと理解していただいて問題ないでしょう.
true
を返すことで, 128 サンプルごとに process
メソッドが繰り返し実行されるからです. 1 度でも
false
を返した AudioWorkletProcessor
は破棄されるような仕様になっているので, 戻り値を切り替える (true
or
false
) ユースケースがほとんどないからです.
port プロパティ (MessagePort インスタンス)
MessagePort
の仕様は Web Audio API の仕様とは別にある (Web Audio API に依存している API ではない) のですが,
実用上必須となるので簡単に解説しておきます (理解されている場合はスキップしてください).
メインスレッドから postMessage
されたデータを受信するには messssage
イベントハンドラの
MessageEvent
イベントオブジェクトにアクセスする必要がありますが, AudioWorkletProcessor
(を継承したサブクラス)
で呼び出されるのは, コンストラクタと process
メソッドのみです. イベントハンドラは, 一度設定してしまえばいいので,
コンストラクタで設定するという実装が定石となります.
<select>
<option value="whitenoise" selected>White Noise</option>
<option value="pinknoise">Pink Noise</option>
<option value="browniannoise">Brownian Noise</option>
</select>
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/processor.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/processor.js')
.then(() => {
const processor = new AudioWorkletNode(context, 'NoiseGeneratorProcessor');
// AudioWorkletNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
processor.connect(context.destination);
document.querySelector('select').addEventListener('change', (event) => {
processor.port.postMessage({ type: event.currentTarget.value });
});
})
.catch((error) => {
// error handling
});
// Filename is './audio-worklets/processor.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
this.type = 'whitenoise';
this.b0 = 0;
this.b1 = 0;
this.b2 = 0;
this.b3 = 0;
this.b4 = 0;
this.b5 = 0;
this.b6 = 0;
this.lastOut = 0;
this.port.onmessage = (event) => {
if (event.data.type) {
this.type = event.data.type;
}
}
}
process(inputs, outputs, parameters) {
// channel number is 0, 1, 2 ...
// `output` is `[Float32Array, Float32Array, Float32Array ...]`
const output = outputs[0];
switch (this.type) {
case 'whitenoise': {
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
output[channelNumber][n] = (2 * Math.random()) - 1;
}
}
break;
}
case 'pinknoise': {
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
const white = (2 * Math.random()) - 1;
this.b0 = (0.99886 * this.b0) + (white * 0.0555179);
this.b1 = (0.99332 * this.b1) + (white * 0.0750759);
this.b2 = (0.96900 * this.b2) + (white * 0.1538520);
this.b3 = (0.86650 * this.b3) + (white * 0.3104856);
this.b4 = (0.55000 * this.b4) + (white * 0.5329522);
this.b5 = (-0.7616 * this.b5) - (white * 0.0168980);
output[channelNumber][n] = this.b0 + this.b1 + this.b2 + this.b3 + this.b4 + this.b5 + this.b6 + (white * 0.5362);
output[channelNumber][n] *= 0.11;
this.b6 = white * 0.115926;
}
}
break;
}
case 'browniannoise': {
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
const white = (2 * Math.random()) - 1;
output[channelNumber][n] = (this.lastOut + (0.02 * white)) / 1.02;
this.lastOut = (this.lastOut + (0.02 * white)) / 1.02;
output[channelNumber][n] *= 3.5;
}
}
break;
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
また, MessagePort
は相互に送受信することができるので, オーディオスレッド (AudioWorkletGlobalScope
)
からメインスレッドにデータを送信することも可能です. その場合, AudioWorkletNode
の port
プロパティが
MessagePort
インスタンスとなるので, 同様に messssage
イベントハンドラをメインスレッドで実装すれば,
MessageEvent
イベントオブジェクトから, postMessage
されたデータを受信することが可能になります.
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/message.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/message.js')
.then(() => {
const oscillator = new OscillatorNode(context);
const processor = new AudioWorkletNode(context, 'MessageProcessor');
// OscillatorNode (Input) -> AudioWorkletNode (Bypass) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(processor);
processor.connect(context.destination);
oscillator.start(0);
processor.port.onmessage = (event) => {
if (event.data) {
console.log(event.data);
}
};
})
.catch((error) => {
// error handling
});
// Filename is './audio-worklets/message.js'
class MessageProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
}
process(inputs, outputs) {
const input = inputs[0];
const output = outputs[0];
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = input.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
output[channelNumber].set(input[channelNumber]);
}
this.port.postMessage({ messaage: 'Bypass 128 samples' });
return true;
}
}
registerProcessor('MessageProcessor', MessageProcessor);
parameterDescriptors メソッド
parameterDescriptors
メソッドは, AudioWorkletProcessor
で独自の
AudioParam
を実装したい場合に使います. process
メソッドや port
プロパティのように (事実上)
必須の実装というわけではないので, ユースケースとして不要であればスキップしてください.
parameterDescriptors
メソッドは Getter です. AudioParamDescriptor
の配列を返すように実装します.
AudioParamDescriptor
で定義できるプロパティは, name
, defaultValue
, minValue
,
maxValue
, automationRate
の 5 つで, このなかで, name
プロパティのみは必須で定義する必要があります.
これは, メインスレッドで AudioParamMap
インスタンスである AudioWorkletNode
の
parameters
プロパティから, キーとして対象の AudioParam
(AudioParamDescriptor
)
を取得するのに必要となるからです. それ以外のプロパティについてはデフォルト値が設定されています (defaultValue
は 0
,
minValue
と maxValue
がそれぞれ, -3.4028235e38
と 3.4028235e38
,
automationRate
は 'a-rate'
です.
// Filename is './audio-worklets/a-rate.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
static get parameterDescriptors() {
return [{
name : 'noiseGain',
defaultValue : 1,
minValue : 0,
maxValue : 1,
automationRate: 'a-rate'
}];
}
constructor() {
super();
}
process(inputs, outputs, parameters) {
const output = outputs[0];
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
output[channelNumber][n] = (2 * Math.random()) - 1;
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
parameterDescriptors
メソッドを実装すると, process
メソッドの第 3 引数が渡されるようになります.
name
で指定した文字列をプロパティにして, パラメータの Float32Array
を取得します. automation
が
'a-rate'
であれば, 128
サンプルごとに異なる値が格納されているので, インデックスを走査していきます.
'k-rate'
の場合, 128
ごとに固定値なので, Float32Array
のインデックス
0
の値を利用します.
// Filename is './audio-worklets/a-rate.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
static get parameterDescriptors() {
return [{
name : 'noiseGain',
defaultValue : 1,
minValue : 0,
maxValue : 1,
automationRate: 'a-rate'
}];
}
constructor() {
super();
}
process(inputs, outputs, parameters) {
const output = outputs[0];
const gain = parameters.noiseGain;
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
output[channelNumber][n] = ((gain.length > 1) ? gain[n] : gain[0]) * ((2 * Math.random()) - 1);
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
automationRate
が 'k-rate' の場合,
// Filename is './audio-worklets/k-rate.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
static get parameterDescriptors() {
return [{
name : 'noiseGain',
defaultValue : 1,
minValue : 0,
maxValue : 1,
automationRate: 'k-rate'
}];
}
constructor() {
super();
}
process(inputs, outputs, parameters) {
const output = outputs[0];
const gain = parameters.noiseGain;
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
output[channelNumber][n] = gain[0] * ((2 * Math.random()) - 1);
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
メインスレッドで, 定義した AudioParamDescriptor
を AudioParam
インスタンスとして取得するには,
parameters
プロパティで AudioParamMap
を取得して, name
プロパティをキーにして取得します. これは
AudioParam
インスタンスなので,
オートメーションメソッドを利用することでパラメータをスケジューリングすることが可能になります.
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/a-rate.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/a-rate.js')
.then(() => {
const processor = new AudioWorkletNode(context, 'NoiseGeneratorProcessor');
// AudioWorkletNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
processor.connect(context.destination);
const audioParamMap = processor.parameters;
const noiseGain = audioParamMap.get('noiseGain');
// do something for scheduling parameter ...
const t0 = context.currentTime;
const t1 = t0 + 2.5;
noiseGain.setValueAtTime(0, t0);
noiseGain.linearRampToValueAtTime(1, t1);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
AudioWorklet
すでに, サンプルコードでは利用していますが, AudioContext
には audioWorklet
プロパティが定義されており, これは
(狭義の) AudioWorklet
インスタンスです. 責務としては, addModule
メソッドを呼び出して,
AudioWorkletProcessor
のサブクラスを定義したスクリプト (Worklet ファイル) をロードすることです.
addModule
メソッドは, Web Audio API に依存した仕様ではなく, JavaScript で使える Worklet (例えば, CSS.paintWorklet
) が,
指定したスクリプト (Worklet ファイル) をロードするために定義されています. addModule
メソッドの第 1 引数は スクリプト (Worklet ファイル)
の URL 文字列で必須です. また, 第 2 引数は任意で, Fetch API の
Request の
credentials mode
のオブジェクトを指定できます. 戻り値は Promise
です. 成功時のコールバック関数の引数はありません.
AudioWorklet によるオーディオ信号処理
AudioWorklet
は複数の API で構成されているので, 抽象的な解説だけだと理解が難しいかもしれません. このセクションでは,
AudioWorklet
のユースケースとして想定されるオーディオ信号処理の実装例を紹介して理解のサポートになることを目指します.
ノイズ生成
すでに, 解説のサンプルコードとして記載していますが, Web Audio API でホワイトノイズやピンクノイズを生成する場合,
AudioWorklet
を利用する必要があります.
ノイズの生成は, 乱数生成がベースになっています. 特に, ホワイトノイズは乱数そのままであり (振幅の調整だけしている), その振幅スペクトルはすべての周波数成分を一様に含んでいます (ノイズ生成の詳細に関しては, How to Generate Noise with the Web Audio API を参考にしてください).
実際に, Web アプリケーションとして実装する場合, ユーザーインタラクティブな操作によって, 発音・停止をさせるケースが多くなるでしょう. そのために,
AudioWorkletProcessor
を継承したサブクラスで, 発音・停止のフラグを実装しておき, メインスレッドからの
postMessage
で切り替えるようにします. すでに解説しましたが, process
メソッドで, false
を返してしまうと,
その AudioWorkletProcessor
は破棄されるような仕様になっているので, 常に true
を返し, 停止中の場合, 出力となる
Float32Array
にデータを格納しないという実装で停止を実装しています.
<button type="button">start</button>
<select>
<option value="whitenoise" selected>White Noise</option>
<option value="pinknoise">Pink Noise</option>
<option value="browniannoise">Brownian Noise</option>
</select>
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/a-rate.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/a-rate.js')
.then(() => {
const processor = new AudioWorkletNode(context, 'NoiseGeneratorProcessor');
// AudioWorkletNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
processor.connect(context.destination);
document.querySelector('button[type="button"]').addEventListener('mousedown', (event) => {
processor.port.postMessage({ processing: true });
event.currentTarget.textContent = 'stop';
});
document.querySelector('button[type="button"]').addEventListener('mouseup', (event) => {
processor.port.postMessage({ processing: false });
event.currentTarget.textContent = 'start';
});
document.querySelector('select').addEventListener('change', (event) => {
processor.port.postMessage({ type: event.currentTarget.value });
});
})
.catch((error) => {
// error handling
});
// Filename is './audio-worklets/noise-generator.js'
class NoiseGeneratorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
this.processing = false;
this.type = 'whitenoise';
this.b0 = 0;
this.b1 = 0;
this.b2 = 0;
this.b3 = 0;
this.b4 = 0;
this.b5 = 0;
this.b6 = 0;
this.lastOut = 0;
this.port.onmessage = (event) => {
if (typeof event.data.processing === 'boolean') {
this.processing = event.data.processing;
}
if (event.data.type) {
this.type = event.data.type;
}
}
}
process(inputs, outputs, parameters) {
if (!this.processing) {
return true;
}
// channel number is 0, 1, 2 ...
// `output` is `[Float32Array, Float32Array, Float32Array ...]`
const output = outputs[0];
switch (this.type) {
case 'whitenoise': {
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
output[channelNumber][n] = (2 * Math.random()) - 1;
}
}
break;
}
case 'pinknoise': {
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
const white = (2 * Math.random()) - 1;
this.b0 = (0.99886 * this.b0) + (white * 0.0555179);
this.b1 = (0.99332 * this.b1) + (white * 0.0750759);
this.b2 = (0.96900 * this.b2) + (white * 0.1538520);
this.b3 = (0.86650 * this.b3) + (white * 0.3104856);
this.b4 = (0.55000 * this.b4) + (white * 0.5329522);
this.b5 = (-0.7616 * this.b5) - (white * 0.0168980);
output[channelNumber][n] = this.b0 + this.b1 + this.b2 + this.b3 + this.b4 + this.b5 + this.b6 + (white * 0.5362);
output[channelNumber][n] *= 0.11;
this.b6 = white * 0.115926;
}
}
break;
}
case 'browniannoise': {
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
const white = (2 * Math.random()) - 1;
output[channelNumber][n] = (this.lastOut + (0.02 * white)) / 1.02;
this.lastOut = (this.lastOut + (0.02 * white)) / 1.02;
output[channelNumber][n] *= 3.5;
}
}
break;
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('NoiseGeneratorProcessor', NoiseGeneratorProcessor);
基本波形生成
基本波形の生成は, OscillatorNode
を利用すれば可能ですが, OscillatorNode
による波形生成は, いわゆる,
フーリエ級数展開 にもとづいた波形生成, つまり, 周波数の異なる sin 波の合成によって, 矩形波やノコギリ波, 三角波が生成されています
(その証拠として, 波形を確認すると Gibbs の現象が発生していることが確認できます).
実は, 基本波形は, 直線を組み合わせることによって (近似した波形を) 生成することも可能です (その場合, Gibbs の現象は発生しなくなります).
<button type="button">start</button>
<select>
<option value="sine" selected>Sine</option>
<option value="square">Square</option>
<option value="sawtooth">Sawtooth</option>
<option value="triangle">Triangle</option>
</select>
<label for="range-frequency">frequency</label>
<input type="range" id="range-frequency" value="440" min="20" max="8000" step="1" />
<span id="print-frequency-value">440 Hz</span>
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/oscillator.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/oscillator.js')
.then(() => {
const processor = new AudioWorkletNode(context, 'OscillatorProcessor');
// AudioWorkletNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
processor.connect(context.destination);
document.querySelector('button[type="button"]').addEventListener('mousedown', (event) => {
processor.port.postMessage({ processing: true });
event.currentTarget.textContent = 'stop';
});
document.querySelector('button[type="button"]').addEventListener('mouseup', (event) => {
processor.port.postMessage({ processing: false });
event.currentTarget.textContent = 'start';
});
document.querySelector('select').addEventListener('change', (event) => {
processor.port.postMessage({ type: event.currentTarget.value });
});
document.querySelector('input[type="range"]').addEventListener('input', (event) => {
processor.port.postMessage({ frequency: event.currentTarget.valueAsNumber });
document.getElementById('print-frequency-value').textContent = `${event.currentTarget.value} Hz`;
});
})
.catch((error) => {
// error handling
});
// Filename is './audio-worklets/oscillator.js'
class OscillatorProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
this.processing = false;
this.t = 0;
this.type = 'sine';
this.frequency = 440;
this.port.onmessage = (event) => {
if (typeof event.data.processing === 'boolean') {
this.processing = event.data.processing;
}
if ((typeof event.data.frequency === 'number') && (event.data.frequency > 0)) {
this.frequency = event.data.frequency;
}
if (event.data.type) {
this.type = event.data.type;
}
};
}
process(inputs, outputs, parameters) {
if (!this.processing) {
return true;
}
// channel number is 0, 1, 2 ...
// `output` is `[Float32Array, Float32Array, Float32Array ...]`
const output = outputs[0];
const t0 = sampleRate / this.frequency;
for (let channelNumber = 0, numberOfChannels = output.length; channelNumber < numberOfChannels; channelNumber++) {
for (let n = 0; n < 128; n++) {
switch (this.type) {
case 'sine': {
output[channelNumber][n] = Math.sin((2 * Math.PI * this.frequency * this.t) / sampleRate);
break;
}
case 'square': {
output[channelNumber][n] = (this.t < (t0 / 2)) ? 1 : -1;
break;
}
case 'sawtooth': {
const a = (2 * this.t) / t0;
output[channelNumber][n] = a - 1;
break;
}
case 'triangle': {
const a = (4 * this.t) / t0;
output[channelNumber][n] = (this.t < (t0 / 2)) ? (-1 + a) : (3 - a);
break;
}
}
if (++this.t >= t0) {
this.t = 0;
}
}
}
return true;
}
}
registerProcessor('OscillatorProcessor', OscillatorProcessor);
リバースチャンネル
左チャンネルからのサウンド出力と右チャンネルからのサウンド出力を反転する短銃なエフェクトです (ただし, その原理から,
左右のチャンネルのサウンドデータが異なる場合にしか効果がありません). 一般的には, オーディオデータに対して適用するので,
オーディオデータの準備として AudioBufferSourceNode
か MediaElementAudioSourceNode
を入力ノードとして,
AudioWorkletNode
に接続しておきます.
<div>
<input type="file" />
<label>Reverse <input type="checkbox" /></label>
</div>
<audio controls />
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/channel-reverser.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/channel-reverser.js')
.then(() => {
const reverser = new AudioWorkletNode(context, 'ChannelReverserProcessor');
const inputElement = document.querySelector('input[type="file"]');
const checkboxElement = document.querySelector('input[type="checkbox"]');
const audioElement = document.querySelector('audio');
let source = null;
inputElement.addEventListener('change', (event) => {
const file = event.currentTarget.files[0];
audioElement.src = window.URL.createObjectURL(file);
});
checkboxElement.addEventListener('click', (event) => {
reverser.port.postMessage({ reversing: event.currentTarget.checked });
});
audioElement.addEventListener('loadstart', () => {
if (source === null) {
source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
}
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> AudioWorkletNode (Channel Reverser) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(reverser);
reverser.connect(context.destination);
});
})
.catch((error) => {
// error handling
});
// Filename is './audio-worklets/channel-reverser.js'
class ChannelReverserProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
this.reversing = false;
this.port.onmessage = (event) => {
if (typeof event.date.reversing === 'boolean') {
this.reversing = event.data.reversing;
}
};
}
process(inputs, outputs) {
const input = inputs[0];
const output = outputs[0];
if ((input.length === 0) || (output.length === 0)) {
return true;
}
if ((input.length !== 2) || (output.length !== 2)) {
output[0].set(input[0]);
return true;
}
if (this.reversing) {
output[0].set(input[1]);
output[1].set(input[0]);
} else {
output[0].set(input[0]);
output[1].set(input[1]);
}
return true;
}
}
registerProcessor('ChannelReverserProcessor', ChannelReverserProcessor);
ボーカルキャンセラ
一般的に, 音楽のオーディオデータはステレオで, 臨場感あるサウンドになるように, 左チャンネルと右チャンネルの音の大きさを調整しています. ボーカルの聴こえる位置は中央になるように左右のチャンネルを同じ音の大きさで録音し, ギターなどのボーカル以外の楽器音は, 左右どちらかの音の大きさを大きくして, 聴こえる位置が左右のどちらかになるように録音されています. このように録音されたオーディオデータであれば, 左右のチャンネルのサウンドデータの差分をとることにより, 左右均等に録音されているボーカルの音を取り除くことが可能になります. これが, ボーカルキャンセラです (ただし, その原理から, ドラムなど中央に位置する楽器音も取り除かれてしまいます).
<div>
<input type="file" />
<label>Depth <input type="range" id="range-dept" value="0" min="0" max="1" step="0.05" /><label>
</div>
<audio controls />
const context = new AudioContext();
// './audio-worklets/vocal-canceler.js' is URL that has subclass that extends `AudioWorkletProcessor`
context.audioWorklet.addModule('./audio-worklets/vocal-canceler.js')
.then(() => {
const canceler = new AudioWorkletNode(context, 'VocalCancelerProcessor');
const inputElement = document.querySelector('input[type="file"]');
const rangeElement = document.querySelector('input[type="range"]');
const audioElement = document.querySelector('audio');
let source = null;
inputElement.addEventListener('change', (event) => {
const file = event.currentTarget.files[0];
audioElement.src = window.URL.createObjectURL(file);
});
rangeElement.addEventListener('input', (event) => {
canceler.port.postMessage({ depth: event.currentTarget.valueAsNumber });
});
audioElement.addEventListener('loadstart', () => {
if (source === null) {
source = new MediaElementAudioSourceNode(context, { mediaElement: audioElement });
}
// MediaElementAudioSourceNode (Input) -> AudioWorkletNode (Vocal Canceler) -> AudioDestinationNode (Output)
source.connect(canceler);
canceler.connect(context.destination);
});
})
.catch((error) => {
// error handling
});
// Filename is './audio-worklets/vocal-canceler.js'
class VocalCancelerProcessor extends AudioWorkletProcessor {
constructor() {
super();
this.depth = 0;
this.port.onmessage = (event) => {
if ((typeof event.data.depth === 'number') && (event.data.depth >= 0)) {
this.depth = event.data.depth;
}
};
}
process(inputs, outputs) {
const input = inputs[0];
const output = outputs[0];
if ((input.length === 0) || (output.length === 0)) {
return true;
}
if ((input.length !== 2) || (output.length !== 2)) {
output[0].set(input[0]);
return true;
}
const bufferSize = 128;
for (let n = 0; n < bufferSize; n++) {
output[0][n] = input[0][n] - (this.depth * input[1][n]);
output[1][n] = input[1][n] - (this.depth * input[0][n]);
}
return true;
}
}
registerProcessor('VocalCancelerProcessor', VocalCancelerProcessor);
スケジューリング
AudioContext の currentTime プロパティ
Web Audio API におけるスケジューリング (OscillatorNode
や AudioBufferSourceNode
の start
/
stop
メソッドのスケジューリング, AudioParam
のスケジューリング) にはおいて, 基本となる時間が
AudioContext
インスタンスの currentTime
プロパティです. このプロパティは,
AudioContext
インスタンスが生成されてからの経過時間を秒単位で表現します (したがって, 参照するだけの
readonly
プロパティです). OscillatorNode
や AudioBufferSourceNode
を即時に発音・停止するために,
start
/ stop
メソッドの第 1 引数に 0
を指定していましたが, 実は, 即時に停止するであれば
AudioContext
インスタンスの currentTime
を指定することでも可能です (即時に発音・停止するのは頻繁にあることなので,
デフォルト値 0
で即時に発音・停止するように仕様定義されています). つまり, AudioContext
インスタンスの
currentTime
プロパティを基準に, 未来の時間を指定すれば (加算すれば), スケジューリングが可能になるということです.
仕様上の詳細を解説をすると, OscillatorNode
や AudioBufferSourceNode
は AudioNode
クラスを継承した
AudioScheduledSourceNode
クラスを継承しており, start
/ stop
メソッドはこのクラスに定義されているメソッドです
OscillatorNode のスケジューリング
OscillatorNode
のスケジューリングを設定することで, 和音をアルペジオ (分散和音) のように発音・停止するサンプルコードにしてみました.
AudioContext
インスタンスの currentTime
プロパティの値を基準に, スケジュールしたい時間を加算した値を引数に渡すことで,
AudioContext
インスタンスが生成されてからの経過時間が指定した時間に達すると, 発音・停止します.
const context = new AudioContext();
// C major chord
let oscillatorC = null;
let oscillatorE = null;
let oscillatorG = null;
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if ((oscillatorC !== null) || (oscillatorE !== null) || (oscillatorG !== null)) {
return;
}
oscillatorC = new OscillatorNode(context, { frequency: 261.6255653005991 });
oscillatorE = new OscillatorNode(context, { frequency: 329.6275569128705 });
oscillatorG = new OscillatorNode(context, { frequency: 391.9954359817500 });
const gain = new GainNode(context, { gain: 0.25 });
// OscillatorNode (Input) -> GainNode -> AudioDestinationNode (Output)
oscillatorC.connect(gain);
oscillatorE.connect(gain);
oscillatorG.connect(gain);
gain.connect(context.destination);
// Schedule oscillator start
oscillatorC.start(context.currentTime + 0.0);
oscillatorE.start(context.currentTime + 0.1);
oscillatorG.start(context.currentTime + 0.2);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if ((oscillatorC === null) || (oscillatorE === null) || (oscillatorG === null)) {
return;
}
// Schedule oscillator stop
oscillatorC.stop(context.currentTime + 0.0);
oscillatorE.stop(context.currentTime + 0.1);
oscillatorG.stop(context.currentTime + 0.2);
// GC (Garbage Collection)
oscillatorC = null;
oscillatorE = null;
oscillatorG = null;
buttonElement.textContent = 'start';
});
AudioBufferSourceNode のスケジューリング
OscillatorNode
の場合と同様に, スケジューリングを設定することで, 和音をアルペジオのように発音・停止するサンプルコードにしてみました.
AudioContext
インスタンスの currentTime
プロパティの値を基準に, スケジュールしたい時間を加算した値を引数に渡すことで,
AudioContext
インスタンスが生成されてからの経過時間が指定した時間に達すると, 発音・停止します. 1 点異なるのは,
AudioBufferSourceNode
の start
メソッドはオーバライドされています. もし,
オーディオデータの再生開始位置を指定したい場合は, 第 2 引数に再生開始位置を秒単位で指定, 再生時間を指定する場合は, 第 3 引数に秒単位で指定します (再生速度を変更している場合でも影響は受けないので, 第 2 引数, 第 3 引数は再生速度を 1
とした場合の値を指定します). どちらも, 任意の引数なので不要であれば省略可能です.
const context = new AudioContext();
// C major chord
let sourceC = null;
let sourceE = null;
let sourceG = null;
let buffer = null;
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
buttonElement.addEventListener('mousedown', (event) => {
if (buffer === null) {
return;
}
sourceC = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
sourceE = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
sourceG = new AudioBufferSourceNode(context, { buffer });
sourceC.detune.value = 0;
sourceE.detune.value = 400;
sourceG.detune.value = 700;
const gain = new GainNode(context, { gain: 0.25 });
// AudioBufferSourceNode (Input) -> GainNode -> AudioDestinationNode (Output)
sourceC.connect(gain);
sourceE.connect(gain);
sourceG.connect(gain);
gain.connect(context.destination);
// Schedule one-shot audio start
sourceC.start((context.currentTime + 0.0), 0, sourceC.buffer.duration);
sourceE.start((context.currentTime + 0.1), 0, sourceE.buffer.duration);
sourceG.start((context.currentTime + 0.2), 0, sourceG.buffer.duration);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', (event) => {
if ((buffer === null) || (sourceC === null) || (sourceE === null) || (sourceG === null)) {
return;
}
// Schedule one-shot audio stop
sourceC.stop(context.currentTime + 0.0);
sourceE.stop(context.currentTime + 0.1);
sourceG.stop(context.currentTime + 0.2);
buttonElement.textContent = 'start';
});
fetch('./assets/one-shots/piano-C.mp3')
.then((response) => {
return response.arrayBuffer();
})
.then((arrayBuffer) => {
const successCallback = (audioBuffer) => {
buffer = audioBuffer;
};
const errorCallback = (error) => {
// error handling
};
context.decodeAudioData(arrayBuffer, successCallback, errorCallback);
})
.catch((error) => {
// error handling
});
AudioParam のスケジューリング (パラメータのオートメーション)
AudioParam
には, パラメータをスケジュールするための, パラメータのオートメーションメソッドが仕様定義されています.
このセクションでは, その最適なユースケースと言える, エンペロープジェネレーターを例にそれらを解説します.
AudioParam
で定義されている, パラメータのオートメーションメソッドを以下のリストに記載します.
setValueAtTime(value, startTime)
startTime
にパラメータを value
に設定する
linearRampToValueAtTime(value, endTime)
endTime
にパラメータが value
になるように線形的に (直線的に) 変化させる
exponentialRampToValueAtTime(value, endTime)
endTime
にパラメータが value
になるように指数関数的に変化させる
setTargetAtTime(target, startTime, timeConstant)
startTime
になったら, パラメータを target
に向けて, timeConstant
の時間をかけて変化させる (より正確には,
target
の約 63.2% ($1 - \frac{1}{\mathrm{exp}}$) まで変化するのに,
timeConstant
の時間を要する)
setValueCurveAtTime(values, startTime, duration)
startTime
になったら, Float32Array
の values
の値にしたがって,
duration
の時間をかけて変化させる
cancelScheduledValues(cancelTime)
cancelTime
以降のスケジューリングを解除する
cancelAndHoldAtTime(cancelTime)
cancelTime
以降のスケジューリングを解除する (cancelTime
時点の値を保持する)
エンベロープジェネレーター
エンベロープとは ?
そもそも, エンベロープとは, 波形の概形のことです. テキストによる解説よりは, イラストによる解説が一目瞭然なので, 例として以下のような波形で説明します.
上記のエンベロープは, 振幅に対する波形の概形なので, 振幅エンベロープと呼びます. 振幅エンベロープを, 時間的に制御するオーディオ処理をエンベロープジェネレーターと呼びます.
エンベロープジェネレーターの実装において, パラメータのスケジュールの対象になるの GainNode
インスタンスの
gain
プロパティです. gain
プロパティは, AudioParam
インスタンスであり,
AudioParam
で仕様定義されているパラメータのオートメーションメソッドを利用することで, パラメータをスケジュールすることが可能です
(同様に, OscillatorNode
インスタンスの frequency
プロパティや, DelayNode
インスタンスの
delayTime
プロパティ, BiquadFilterNode
の frequency
プロパティ ... など,
AudioParam
インスタンスであれば利用可能です. したがって, パラメータのオートメーションメソッドを理解することで,
さまざまなエフェクトが試行錯誤可能になります).
gain プロパティの初期化
まず, 初期化処理として, setValueAtTime
メソッドを実行します. 初期値として, 値を
0
に, また即時に初期化するように, AudioContext
インスタンスの currentTime
プロパティ (t0
)
を指定します.
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const envelopegenerator = new GainNode(context);
let oscillator = null;
buttonElement.addEventListener('mousedown', () => {
if (oscillator !== null) {
return;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode (Envelope Generator) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(envelopegenerator);
envelopegenerator.connect(context.destination);
const t0 = context.currentTime;
envelopegenerator.gain.setValueAtTime(0, t0);
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
})
attack
attack (アタック) は, ゲインが最大値, すなわち, 1
になるまでに要する時間です. そこで, attack の実装には,
linearRampToValueAtTime
メソッドを利用します (一般的には,
線形的に変化させますが, 指数関数的に変化させたい場合,
exponentialRampToValueAtTime
メソッドを使ってみてもよいでしょう). 注意が必要なのは, 第 2 引数です. attack time の値をそのまま指定してしまうとうまくいきません. なぜなら,
時間ではなく時刻を指定する必要があるからです. したがって, サウンド開始時刻 (変数 t0
) に attack を加算した値 (変数
t1
) を第 2 引数に指定します.
attack は, もう少しくだいて表現すれば, 音の立ち上がりの速さを決定するパラメータと言えます. 楽器で具体例をあげると, ピアノやギターは比較的音の立ち上がりが速い楽器で, バイオリンやフルートなどは比較的音の立ち上がりが遅い楽器です. すなわち, アタックを短くするとピアノやギターのように音の立ち上がりが速くなり, アタックを長くするとバイオリンやフルートのように音の立ち上がりが遅くなります. ちなみに, 音の立ち上がりが比較的速い (アタックが短い) エレキギターでは, バイオリン奏法と呼ばれる奏法があります. これは, ピッキング時に, ギターのボリュームを0にすることによって, ピッキングした瞬間の音 (アタック音) を消し, そのあとに, ボリュームを増加させるという奏法です. エレキギターであるのに, まるでバイオリンのような音色を奏でることができます.
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const envelopegenerator = new GainNode(context);
const attack = 0.01;
let oscillator = null;
buttonElement.addEventListener('mousedown', () => {
if (oscillator !== null) {
return;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode (Envelope Generator) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(envelopegenerator);
envelopegenerator.connect(context.destination);
const t0 = context.currentTime;
const t1 = t0 + attack;
envelopegenerator.gain.setValueAtTime(0, t0);
envelopegenerator.gain.linearRampToValueAtTime(1, t1);
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
decay / sustain
decay (ディケイ) は, ゲインが最大値 1
から sustain (サステイン) にまで減衰する時間です.
setTargetAtTime
メソッドを利用することで実装できます. 注意が必要なのは, 第 2
引数と第 3 引数です. 第 2 引数にはパラメータが変化を開始する時刻を指定し, 第 3 引数にはパラメータが第 1 引数で指定した値 (の約 63.2%)
まで変化するのに要する時間を指定します. したがって, 第 2 引数は gain
プロパティが 1
となる時刻 (減衰開始時刻) である変数
t1
を指定し, 第 3 引数は decay time である変数 t2
を指定します. そして, 第 1 引数は
gain
プロパティが収束する値である sustain level (サステインレベル) を指定します.
attack, decay, release は物理量が時間なのに対して, sustain のみゲイン
なので注意してください.
(余談ですが, sustain という用語は, エンベロープジェネレーターに限らず, 楽器に対しても利用されるものです. 例えば, ピアノのダンパーペダル (右側のペダル) は, サステインペダルとも呼ばれますし, X JAPAN のギタリストである HIDE さんが愛用している, フェルナンデス製のモッキンバードには, サスティナーと呼ばれる機能が搭載されている機種があります. いずれも, 生成した音の余韻 (伸び) をコントロールことが目的です. つまり, 楽器におけるサステインは, エンベロープジェネレーター (やシンセサイザー) における release も含んだようなニュアンスになります).
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const envelopegenerator = new GainNode(context);
const attack = 0.01;
const decay = 0.3;
const sustain = 0.5;
let oscillator = null;
buttonElement.addEventListener('mousedown', () => {
if (oscillator !== null) {
return;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode (Envelope Generator) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(envelopegenerator);
envelopegenerator.connect(context.destination);
const t0 = context.currentTime;
const t1 = t0 + attack;
const t2 = decay;
const t2Level = sustain;
envelopegenerator.gain.setValueAtTime(0, t0);
envelopegenerator.gain.linearRampToValueAtTime(1, t1);
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(t2Level, t1, t2);
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
release
release (リリース) は, ゲインが sustain から最小値 0
に変化するまでの時間です. decay / sustain と同じく,
setTargetAtTime
メソッドを利用することで実装できます.
gain
プロパティを 0
に近づけていくので, 第 1 引数には 0
を指定します. 第 2
引数に指定するリリースの開始時刻は, AudioContext
インスタンスの currentTime
プロパティ値です. また, 第 3
引数には変化に要する時間, すなわち, release time (リリースタイム) を指定します.
ドラムのような音の余韻が短い楽器をシミュレートしたり, スタッカート (音を短く切って演奏する楽譜の記号) を実現したりする場合は release を短く, 逆に, ダンパーペダルを踏んだピアノの音や, フェルマータ (音を長く伸ばして演奏する楽譜の記号) を実現したりする場合は release を長くします.
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const envelopegenerator = new GainNode(context);
const attack = 0.01;
const decay = 0.3;
const sustain = 0.5;
const release = 1.0;
let oscillator = null;
buttonElement.addEventListener('mousedown', () => {
if (oscillator !== null) {
return;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode (Envelope Generator) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(envelopegenerator);
envelopegenerator.connect(context.destination);
const t0 = context.currentTime;
const t1 = t0 + attack;
const t2 = decay;
const t2Level = sustain;
envelopegenerator.gain.setValueAtTime(0, t0);
envelopegenerator.gain.linearRampToValueAtTime(1, t1);
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(t2Level, t1, t2);
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', () => {
if (oscillator === null) {
return;
}
const t3 = context.currentTime;
const t4 = release;
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(0, t3, t4);
buttonElement.textContent = 'start';
});
リリースを実装する場合は, OscillatorNode
インスタンスの stop
メソッドの即時実行は不要です. その理由は,
stop
メソッドを即時実行すると, その時点で音が停止してしまうので, 音に余韻が生まれません. といっても, このままでは,
start
メソッドの多重呼び出しになります. すなわち, start
メソッドと
stop
メソッドは一対ということが順守できていません.
そこで, タイマー処理で gain
プロパティをチェックして, 停止とみなせる値になれば, stop
メソッドを実行します.
ここで, 最小値である 0
と表現しなかったのは理由があります. 確かに, 理論上は, 停止とみなせる値は 0
ですが, 実装上では,
(原因はわかりませんが) 半永久的に 0
にはなりません. したがって, 停止とみなせる値を 0.001
未満と設定しています.
また, 停止とみなせる値になる前に, 再度, mousedown
した場合は, OscillatorNode
を即時停止します.
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const envelopegenerator = new GainNode(context);
const attack = 0.01;
const decay = 0.3;
const sustain = 0.5;
const release = 1.0;
let oscillator = null;
let intervalid = null;
buttonElement.addEventListener('mousedown', () => {
if (oscillator !== null) {
oscillator.stop(0);
oscillator = null;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode (Envelope Generator) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(envelopegenerator);
envelopegenerator.connect(context.destination);
const t0 = context.currentTime;
const t1 = t0 + attack;
const t2 = decay;
const t2Level = sustain;
envelopegenerator.gain.setValueAtTime(0, t0);
envelopegenerator.gain.linearRampToValueAtTime(1, t1);
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(t2Level, t1, t2);
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', () => {
if (oscillator === null) {
return;
}
const t3 = context.currentTime;
const t4 = release;
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(0, t3, t4);
buttonElement.textContent = 'start';
intervalid = window.setInterval(() => {
if (envelopegenerator.gain.value >= 1e-3) {
return;
}
// Stop sound (If use `OscillatorNode`)
oscillator.stop(0);
oscillator = null;
if (intervalid !== null) {
window.clearInterval(intervalid);
intervalid = null;
}
}, 0);
});
これで, 完成しました ... と言いたいところですが, 1 つ問題点があります. もし, attack time もしくは decay time が経過する前に,
mouseup
イベントが発生するとどうなるでしょう ? attack, decay のゲイン変化のスケジューリングと,
release におけるゲイン変化のスケジューリングが混在してしまいますね. つまり, 上記のコードだと,
意図したスケジューリングにならない可能性があるという問題点があります. これを解決するには,
イベント発生時にスケジューリングをすべて解除すれば解決します. そして, スケジューリングの解除には,
cancelScheduledValuesメソッド, もしくは, 値をそのまま保持しておきたい場合は,
cancelAndHoldAtTime メソッドを利用します.
具体的には, mouseup
時は, 値を保持しておきたいので, cancelAndHoldAtTime
メソッドでスケジューリングを解除します. また,
ボタンが連打された場合に不要なスケジューリングが解除されるように, mousedown
時は,
cancelScheduledValues
メソッドでスケジューリングを解除します (そのあと setValueAtTime
メソッドで
0
に初期化されるので値を保持する必要がないので).
const context = new AudioContext();
const buttonElement = document.querySelector('button[type="button"]');
const envelopegenerator = new GainNode(context);
const attack = 0.01;
const decay = 0.3;
const sustain = 0.5;
const release = 1.0;
let oscillator = null;
let intervalid = null;
buttonElement.addEventListener('mousedown', () => {
if (oscillator !== null) {
oscillator.stop(0);
oscillator = null;
}
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> GainNode (Envelope Generator) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(envelopegenerator);
envelopegenerator.connect(context.destination);
const t0 = context.currentTime;
const t1 = t0 + attack;
const t2 = decay;
const t2Level = sustain;
envelopegenerator.gain.cancelScheduledValues(t0);
envelopegenerator.gain.setValueAtTime(0, t0);
envelopegenerator.gain.linearRampToValueAtTime(1, t1);
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(t2Level, t1, t2);
oscillator.start(0);
buttonElement.textContent = 'stop';
});
buttonElement.addEventListener('mouseup', () => {
if (oscillator === null) {
return;
}
const t3 = context.currentTime;
const t4 = release;
envelopegenerator.gain.cancelAndHoldAtTime(t3);
envelopegenerator.gain.setTargetAtTime(0, t3, t4);
buttonElement.textContent = 'start';
intervalid = window.setInterval(() => {
if (envelopegenerator.gain.value >= 1e-3) {
return;
}
// Stop sound (If use `OscillatorNode`)
oscillator.stop(0);
oscillator = null;
if (intervalid !== null) {
window.clearInterval(intervalid);
intervalid = null;
}
}, 0);
});
エンベロープジェネレーターの応用
エンベロープジェネレーターの実装, すなわち, gain
プロパティのスケジューリングは, オーディオソースに依存したことではないので,
AudioBufferSourceNode
をオーディオソースとして利用することで,
ワンショットオーディオにもエンベロープジェネレーターを適用することが可能になります. また, attack と release を楽曲データの再生に適用することで,
フェードイン・フェードアウトの実装も可能になります.
このセクションのまとめとして, エンベロープジェネレーターの制御となる gain
プロパティの値を視覚化するデモとなります. attack, decay,
sustain, release の値を変えてみて, gain
プロパティの値の変化や, それにともなう音色の変化を体感してみてください.
Web Audio API におけるガベージコレクション
Web Audio API においてはこのセクションで解説したようなスケジューリングや,
DelayNode
などを利用した時に発生する遅延オーディオデータなどがあるので, JavaScript
の仕様上のガベージコレクションの対象となるオブジェクトに追加して, いくつかの条件があります.
- 参照が残っていない
- 処理すべきサウンドデータが残っていない
- ノードが接続されていない
- サウンドが停止している
- スケジューリングが設定されていない
上記 5 つの条件すべてを満たすオブジェクトが, ガベージコレクションの対象となります. ざっくり説明すれば, なにかしらで利用されているオブジェクトはガベージコレクションの対象にならないということです.
参照が残っていない
これに関しては, Web Audio API に限らず, JavaScript, あるいは, ガベージコレクションが実装されているあらゆるプログラミング言語一般的なことです.
処理すべきサウンドデータが残っていない
処理すべきサウンドデータが意図せずに残るケースとして, DelayNode
や ConvolverNode
を利用して,
エフェクターであるディレイやリバーブを実装した場合が考えられますが, 実装的には対処する必要はありません. 処理すべきサウンドデータがある場合に,
サウンドデータを完了状態にするのは, DelayNode
や ConvolverNode
の役割であるのと, そもそも,
このような場合に処理が残っているサウンドデータを破棄するなどの手段が現状の仕様では存在しないからです.
ノードが接続されていない
不要になった AudioNode
インスタンスは, disconnect
メソッドでノードの接続を解除しておくのが律儀ではありますが,
参照を破棄することで, 同時にノードの接続も解除されるので, 明示的に実装する必要はありません. ちなみに,
disconnect
メソッドのユースケースとしては, 例えば,
ユーザーインタラクティブな操作などで動的にノードの接続を解除する必要がある場合ぐらいです.
以下のコードは, ノード接続状態のまま, 参照を破棄していますが, 同時にノード接続も解除されるのでメモリリークに陥ることはありません.
const context = new AudioContext();
let oscillator = null;
window.setInterval(() => {
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
}, 10);
サウンドが停止している
以下のコードは, サウンドが発音状態なので, ガベージコレクションが実行されず, メモリがしだいに不足していく例です. その理由は, コールバック関数実行のたびに, 以前のインスタンスへの参照は破棄されますが, それに対応するサウンドが停止していないからです.
const context = new AudioContext();
let oscillator = null;
window.setInterval(() => {
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
oscillator.start(0);
}, 10);
スケジューリングが設定されていない
以下のコードは, 参照を破棄して, サウンドを停止状態にしていますが, 時間が経過するほど, サウンドの開始が少しずつ遅延するようにサウンドスケジューリングしているので, ガベージコレクションの実行もそれにともなって遅れるので, メモリが不足していきます.
const context = new AudioContext();
let oscillator = null;
let counter = 0;
window.setInterval(() => {
oscillator = new OscillatorNode(context);
// OscillatorNode (Input) -> AudioDestinationNode (Output)
oscillator.connect(context.destination);
const startTime = context.currentTime + counter;
const stopTime = startTime + 10;
oscillator.start(startTime);
oscillator.stop(stopTime);
++counter;
}, 10);
デジタルオーディオ信号処理
A/D 変換
アナログ信号である音 (媒体の振動) をコンピュータで処理するためには, 0
と 1
のみの情報, つまり,
デジタル信号に変換する必要があります. この変換処理のことを, A/D変換 (Analog to Digital Conversion) と呼びます. A/D 変換は, 大きく 3
つの処理があります.
- サンプリング (標本化)
- 量子化
- 符号化
サンプリング (標本化) と量子化の処理に共通することは, 連続した信号を離散した信号に変換することです. コンピュータでは, 連続した値や無限大となる値を扱うことが不可能だからです.
「音」のセクションでは, いくつか音の波形のイラストを記載しましたが, それらは常に 2 つの連続した物理量 (次元) をもっていました. 時間と振幅です. サンプリング (標本化) と量子化は, これら 2 つの連続した物理量を離散信号に変換する処理となります.
サンプリング (標本化)
サンプリング (標本化)は, 時間を離散した値に変換する処理です. 離散信号, すなわち, とびとびの値をとっていくためには,
その間隔を決定するパラメータが必要になります. それが, サンプリング周期 (標本化周期) です. サンプリング周期の逆数となるパラメータは,
標本化周波数 (サンプリング周波数) です. 簡単に解説すれば, サンプリング周波数は, 1 sec
の間に, いくつのサンプル (離散点)
をとるか ? ということを意味しています. 例えば, サンプリング周波数が 48000 Hz
の場合, 1 sec
の間に
48000
サンプル (離散点) をとることになります.
サンプリング (標本化) では重要な定理があります. それは, サンプリング周波数の $\frac{1}{2}$ 以上の周波数は元のアナログ信号に復元できないという定理です. この定理は, サンプリング定理 (標本化定理, シャノンの定理) と呼ばれます. 逆の視点で表現すれば, サンプリング周波数の $\frac{1}{2}$ より低い周波数は元のアナログ信号に復元可能ということです. また, サンプリング周波数の $\frac{1}{2}$ は, ナイキスト周波数と呼ばれます. サンプリング定理から, 原信号に含まれる最大の周波数成分の 2 倍より大きいサンプリング周波数に設定すれば, 元のアナログ信号に復元可能ということになります (実際には, 低域通過フィルタ (Low-Pass Filter) を利用して, 高い周波数成分を除去するプリプロセス処理を施します).
サンプリング定理を満たさないサンプリング周波数, すなわち, 原信号に含まれる最大の周波数成分の 2 倍以下のサンプリング周波数でサンプリングすると, 折り返し歪み (エイリアス歪み) が発生して, ノイズとして復元されてしまいます.
例えば, 1 Hz
の信号に対して, 2 サンプル (サンプリング周波数 2 Hz
, ナイキスト周波数 1 Hz
)
では原信号に復元できません.
1 Hz
の信号に対して, 3 サンプル (サンプリング周波数 3 hz
, ナイキスト周波数 1.5 Hz
) だと, 精度は低いですが,
原信号に復元できます
サンプリングの精度を高くするほど, すなわち, サンプリング周波数を高くするほど元のアナログ信号に対してより精度の高いデジタル信号に変換可能となります. 一方で, データサイズはサンプリング周波数に比例して大きくなってしまいます.
以下の図は, 充分なサンプル数 (サンプリング周波数) だと原信号により精度高く復元できること表しています. そのトレードオフとして, サンプル数が多くなるので, データサイズはより大きくなることも表しています.
サンプリング周波数の具体例として, 音楽 CD は 44.1 kHz
に設定されています. 人間の聴覚が知覚可能な周波数はおよそ
20 kHz
であることを考慮してサンプリング定理を適用しているからです. さらに音質の高いものだと
96 kHz
以上に設定されている音楽データもあります (ハイレゾオーディオのサンプリング周波数). 電話では
8 kHz
に設定されています. 音声の場合は, 多少音質が損なわれても相手の音声を聴きとることが可能なこと,
楽器音ほど高い周波数成分が含まれないこと, リアルタイムに通信するので可能な限りデータサイズを減らす必要があることなどが理由としてあげられます.
Web Audio API では, AudioContext
インスタンス生成時の引数として, AudioContextOptions
の
sampleRate
プロパティで明示的に指定することが可能です. 明示的に指定しない場合, デバイスのサンプリング周波数
(44100
, 48000
など) に設定されています.
サウンドの視覚化の実装では, サンプリング周波数 (AudioContext
インスタンス, または, AudioBuffer
インスタンスの
sampleRate
プロパティ) にアクセスすることはよくあります. したがって, サンプリング周波数が何を意味しているのか ? ということと,
サンプリング定理に関して理解しておくと役に立つでしょう.
量子化
量子化は, 振幅を離散した値に変換する処理です. サンプリングと同じく, とびとびの値をとっていくためには, その間隔を決定づけるパラメータが必要になります. それが, 量子化ビット (量子化精度) です.
サンプリングされたアナログ信号は時間軸方向は, 離散化されていますが, 振幅軸の方向は連続したままです. 量子化では,
量子化ビットで指定された精度にしたがって, 振幅を整数値に丸める処理を実行します. 例えば, 量子化ビットが 2 bit
の場合, 4
つのステップの値 ($2^{2} = 4$) のいずれかに, 3 bit
の場合, 8 つのステップの値 ($2^{3} = 8$) のいずれかに振幅が丸められます.
量子化の丸め処理によって生じる誤差を, 量子化雑音
と呼びます. 量子化ビットが小さいほど, 丸め処理による誤差が大きくなり,
原信号への復元も精度が低くなってしまいます. 逆に, 量子化の精度を高くするほど, すなわち, 量子化ビットを大きくするほど, 量子化雑音は少なくなり
(誤差が小さくなり), 原信号への復元の精度も高くなりますが, データサイズは量子化ビットに比例して大きくなります.
音楽 CD での量子化ビットは 16 bit に設定されています. ハイレゾオーディオの量子化ビットは 24 bit
以上が必要条件となっています.
符号化
サンプリングによって, 時間軸方向に離散化し, それぞれのサンプル点を, 量子化によって丸めた整数値に 2 進数を割り当てていきます. 量子化した (整数値に丸めた) 振幅を 2 進数に符号化すると, コンピュータの内部で処理することが可能なデジタル信号となります.
サンプリング周波数 16 Hz
, 量子化ビット 4 bit
, 2 の補数方式で符号化した例です.
フーリエ解析
このセクションでは, デジタルオーディオ信号処理において, 中核となる数学的処理である, フーリエ解析 (フーリ級数と, フーリエ級数を一般化した
(非周期関数に拡張した) フーリエ変換, コンピュータでフーリ変換を実行するための離散フーリエ変換, そして, 回転子の性質を利用して, 離散フーリエ変換の
(時間) 計算量を $O\left(N^{2}\right)$ から
$O\left(N\mathrm{log_{2}}N\right)$ に減らして実行する高速フーリエ変換) について解説します. もっとも,
数式による厳密な解説や証明は, 最適なドキュメントや書籍がすでにたくさんあるので, できるだけ, Web Audio API での仕様を把握したり,
AudioWorklet
でオーディオ信号処理を実装したりする場合を想定して, 数式による (厳密な) 解説は最小限にとどめて,
イラストやコードをベースに, 概念を理解するために役に立つ内容になればと思います.
フーリエ級数
周期関数は, 周波数の異なる余弦波と正弦波の級数で近似することができます. この級数が, フーリエ級数であり, 周期関数をフーリエ級数で表現する場合, フーリエ級数展開 と呼ばれます. $x\left(t\right)$が, 周期 $T$ の場合, フーリエ級数は以下の数式で定義されます.
$a_{n}$, $b_{n}$ は フーリエ係数で, 物理的には各周波数成分の振幅を表しています. また, $\frac{2 \pi}{T} = 2 \pi f$ は, 角速度 $\omega$ で定義される場合もあります.
厳密には, フーリエ級数が成立する条件は, 周期関数であるだけでは不十分で, ディリクレの条件と合わせて十分条件となります. これを理解するためには, 三角関数の基本的な性質 (高校レベルの数学) や三角関数の直交性などをもとに, リーマン・ルベーグの補助定理やパーセバルの等式などを理解する必要があるので, 数学的な厳密性を理解したい場合は, それぞれ最適なドキュメントを参考にしてください.
ここでは, 視覚的に理解するために, 周波数の異なる正弦波の級数で, 矩形波やノコギリ波, 三角波を生成してみます. また, 級数を大きくする (項数を大きくする) ほど, 実際の波形により近似することもわかります.
余弦波と正弦波で表現されるフーリエ級数に, オイラーの公式 ( $e^{j\theta} = \cos\left(\theta\right) + j\sin\left(\theta\right)$ ) を適用すると, 複素フーリエ級数を導出可能です (より一般化したフーリエ級数).
物理的な観点で理解すると, 複素フーリエ級数は, 余弦波と正弦波の 2 次元の振動現象であるフーリエ級数を, 3 次元の回転へと拡張します. また, 複素フーリエ級数によって, フーリエ級数の問題点, すなわち, 位相をシフトするとフーリエ係数の値が変化する問題 (余弦波と正弦波は位相の違いでしかないので, 原信号が同じでもフーリエ係数が異なることが起きうる) を発展的に解決します.
フーリエ変換
フーリエ級数が周期関数のみ適用可能だったのを, 非周期関数にも適用できるように, さらに拡張したフーリエ級数がフーリエ変換です. フーリエ級数から, フーリエ変換を導出するには, 非周期, つまり, 周期を $\infty$ に拡張して導出します. 具体的には, 複素フーリエ級数の係数 $c_{n}$ の周期 $T$ を $\infty$ に拡張すると, 角速度 $\omega (= \frac{2 \pi}{T} = 2 \pi f)$ が連続的な角速度になることで導出できます.
フーリエ変換の厳密な導出を理解するには, デルタ関数や単位階段関数の理解が必要になります (さらに, フーリエ変換では, 絶対可積分 ($\int_{-\infty}^{\infty}\left|f\left(t\right)\right|dt \lt \infty$ ) が必要条件となります. フーリエ級数からフーリエ変換の数学的な導出の詳細に関しては, それぞれ最適なドキュメントを参考にしてください).
スペクトル
フーリエ変換後の関数は, 物理的にはスペクトルとなります. スペクトルとは, 各周波数成分の振幅や位相を表す波形です (したがって, 周波数領域の波形, 周波数ドメインの波形などと表現することもあります). つまり, 2 次元のグラフで考えると, 横軸の次元が周波数となり, 縦軸が振幅であれば, 振幅スペクトル, 位相であれば, 位相スペクトルとなります. もう少し厳密に説明すると, フーリエ変換後の関数は, 複素数となるので, 絶対値を取得すれば振幅スペクトル, 偏角を取得すれば位相スペクトルとなります (以下に, 複素数 $z = x + jy$ を定義した場合の絶対値 $\left|z\right|$ と偏角 $\theta$ を記載します). フーリエ変換後の関数を逆フーリエ変換すると, 元の横軸を時間とした波形となります フーリエ変換後の関数を逆フーリエ変換すると, 元の横軸を時間とした波形を表す波形となります.
ちなみに, 人間の聴覚は位相スペクトルの違いに鈍感という特性があるので, 一般的に, スペクトルと表現した場合, 振幅スペクトルを意味することがほとんどです.
音響特徴量は振幅スペクトルにあらわれることが多く, したがって, オーディオ信号処理を適用する場合, 周波数領域にて演算を実行することが頻繁にあります. このことが, デジタルオーディオ信号処理において, フーリエ解析 (コンピュータでは, 高速フーリエ変換) が中核となる理由です.
離散フーリエ変換 (DFT)
コンピュータで実現する場合, 無限区間の積分は原理上できないので, ある区間で和分を算出する必要があります. これが, 離散フーリエ変換 (DFT: Discrete Fourier Transform)です (余談ですが, コンピュータでの積分は和分, 微分は差分で実装します).
フーリエ変換から, 離散フーリエ変換を導出するには, 周波数 (周期) と, サンプリング周波数 (サンプリング周期) を数列 (離散値) で対応づけます.
$f_{s}$ は, サンプリング周波数 ($T_{s}$ は, サンプリング周期). また,
離散フーリ変換は, 一定のサイズで変換する必要があるので $N$ は, 離散フーリエ変換のサンプル数です (Web Audio API
では, AnalyserNode
の fftSize
プロパティの値に相当します).
そして, 積分は和分になるので, これらをフーリエ変換の式に適用して, 変形すると, 離散フーリエ変換の数式が導出できます. $x\left(n\right)$, および, $X\left(k\right)$ は, サンプリングした信号です. 数学的には数列, プログラミング的には配列のような順序性をもつ数値のコレクションと考えると理解しやすいかもしれません).
多くのプログラミング言語において, 配列のようなコレクションのインデックスは 0
から開始するので, 離散フーリエ変換の積和演算の範囲も,
0
から開始している点と有界となっている点に着目してください.
また, $e^{-j\frac{2 \pi n}{N}}$ は, 回転子と呼ばれ, 以下のように定義されます.
回転子は, 例えば, $N$ を 8
として場合, 複素平面上の単位円を 8 分割するような回転を表現します.
このことから, 回転子は以下のような性質をもっています.
- $W^{n + N} = W^{n}$
- $W^{n + \frac{N}{2}} = -W^{n}$
以下は, 回転子で定義した離散フーリエ変換と逆離散フーリエ変換です. 高速フーリエ変換では, 回転子の上記に記載した性質 (周期性による対称性や, 半周期性の負の対称性) を利用して, 各要素の計算量を減らして演算の高速化を実現しています.